声明

高市政権誕生に寄せて 【2025.10.30】

自由民主党は、昨年の総選挙、そして今年の参院選挙で敗北し、結党以降初めて衆参両院とも少数与党に転落した。さらに26年間連れ添った公明党との連立解消も余儀なくされた。国民生活がますます逼迫する中で、「裏金政治」の闇を温存し続ける古い利益政治に、これまでの支援者を含む多くの有権者が見切りをつけた結果である。

その「再生」をかけた党の総裁選挙は、マスメディアの力も借りて再び「自民党劇場」の様相を呈し、まるで総裁が変われば、自民党政治の構造的な諸問題が解消するかのような「演出」がなされた。しかし案の定、どの総裁候補も「裏金政治」を正すための本気の公約を口にすることはなく、結局、麻生太郎氏をはじめとする自民党の古い派閥権力が暗躍して誕生したのが高市新総裁である。

国会では、政権交代のための野党連立政権の可能性も浮上した。しかし野党は結局、新たな「連合政治」の時代へと踏み出す力量に欠け、結束できなかった。その間隙をぬって、自民はN国党にも接近するなど、なりふり構わず多数派工作を試み、結果的に日本維新の会が自民と手を結ぶことによって高市政権が誕生した。現在の日本政治における焦眉の課題は、何よりも国民生活や社会保障の回復、そしてそれらを損なってきた古い利権政治との決別だったはずである。しかし高市政権は依然として金権議員を重用し続け、自民党の古い権力構造にメスを入れる姿勢を微塵も見せない。また、自民と「連立」する上で維新が「身を切る改革」として提示した主要政策は、国会議員の定数削減というまるでピント外れなパフォーマンスにとどまった。所信表明で「日本の未来を切り開く」と高らかに宣言した高市政権だが、このように実際には、その中核に古い体質を温存させたごく後ろ向きの政権に他ならない。所信表明で示された物価高対策なども、特に新味や説得力を見いだすことはできなかった。

しかしその一方で、かねてより自ら安倍政治の継承を公言する高市政権は、緊急事態条項の設置をはじめとする憲法改正やスパイ防止法の制定などに加え、GDP比2%の防衛費増額や「安保三文書」改定の前倒しなどを表明し、国家主義と戦争準備という意味においては強く「前進」する意向を見せている。2022年に(国会の審議を経ずに)閣議決定された「安保三文書」のさらなる「改定」は、実際には、長射程ミサイルの整備や事実上の原子力潜水艦の保有、さらには、輸出可能な防衛装備品の緩和など、専守防衛原則や憲法の平和主義を再び脅かす内容を孕んでいる。皮肉にも、国際反戦デー、そして沖縄米兵少女暴行事件の県民総決起集会からちょうど30年の日に誕生した高市政権は、国内メディアが喧伝する「保守」というよりむしろ、正確には極度に「タカ派」色に染め上げられた政権に他ならない。

私たち市民連合は、この国の止めどない軍拡が、実際は私たちの「安全」や「安心」に直結するわけではないという、真の「リアリズム」に基づいている。高市=維新政権が考えるように、アメリカの軍事戦略に迎合し、軍備を拡張しないと隣国の脅威に抗えず、また原発を稼働させなければ(安い)エネルギーが得られず経済が回らないといった、一見もっともらしいが粗雑な迷信に囚われない。むしろ、経済も安全保障もアメリカの世界戦略に隷属し、戦争できる国づくりへの道を選択することによって、国民生活も次世代の安全も深刻に脅かされる危険性に目を向ける必要がある。

かつて私たちが多くの犠牲をもって学んだように、戦争国家への道は、まず社会そのものの軍事化をもたらす。私たちは、高市政権が、選択的夫婦別姓制度やワークライフバランスに背を向け、家父長制的な家制度に固執し、「日本国国章損壊罪」の制定を目指していることを見逃さない。私たちが望むのは「強い国家」ではなく、安心安全で平和なごく普通の市民生活である。これからも私たちは、単なる軍事力や国家主義に依拠しない、真に「信じられる未来」に向けて、それに賛同するあらゆる市民、政党、団体と連携し、来るべき新しいこの国のかたちを具体的に模索していきたい。

2025年10月30日

安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合

 

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