ひろば

沖縄と憲法 ~2023年度沖縄内地留学を踏まえて~
飯島 滋明(名古屋学院大学/憲法学・平和学 戦争をさせない1000人委員会事務局次長)【2024.08】

1 那覇に滞在して約1年

2023年9月から沖縄大学での内地留学をはじめて約1年がたつ。沖縄、本当に良いところである。海のきれいさは感動的ですらある。宮古島の保良(ぼら)の夜空、目が悪い私でも星を肉眼で観測でき、スマホで「天の川」の撮影すらできる。

ただ、憲法の観点から「沖縄」を見ると、在日米軍や自衛隊の存在との関係で別の問題も見えてくる。本稿では「在沖米軍」の実態と憲法の関係、そして自民党・公明党政治の問題を指摘する。

2 「環境権」「教育を受ける権利」を奪い、脅かす「米軍」

(1)米軍機の騒音

2023年9月から1年間、那覇市久米に住んでいるが、朝、米軍の戦闘機の爆音で起こされたり、たとえば「虎に翼」「羽鳥慎一モーニングバード」を観ている最中に米軍機の騒音でテレビの音がかき消されたことも数回ではない。夜中にも「未亡人製造機」と言われる「オスプレイ」が飛行し、音が響く状況も確認した。周りの人からすれば「変な人」だと思うが、米軍機の音が聞こえるとベランダに行き、スマホなどで録画するのが日課になっていた。この原稿を書いている8月20日午前中もベランダに行き、録画する作業を繰り返している。那覇市でさえそうした状況である。普天間基地や嘉手納基地の近くの騒音はけた違いである。2019年3月13日、北海道大学の松井利仁教授(環境衛生学)は、嘉手納基地の騒音を原因とする心筋梗塞で年10人死亡しているとの推計結果を発表した(『沖縄タイムス』2019年3月14日付)。米軍機騒音は、「良好な環境を享受し、これを支配する権利」である「環境権」(憲法13条、25条)を侵害、脅かしてきた。

さらに、とりわけ普天間基地や嘉手納基地周辺の学校では、米軍機の騒音が学校の円滑な授業を妨げる。米軍機の騒音は、子どもたちの「教育を受ける権利」(憲法26条)をも奪い、脅かす。

(2)最新戦闘機配備と騒音

『沖縄タイムス』2024年7月3日付1面、「嘉手納に最新鋭戦闘機」との記事が掲載されている。2022年12月からF15の一部の退役を開始、その穴埋めとしてF22やF35がローテーションで暫定配備されているため、騒音が増している。さらにF15EXが常駐すれば、「騒音レベルは4デシベル程度、増加する」という。

(3)日米共同軍事訓練と騒音

最近では、2024年7月28日から8月7日まで、日米共同軍事訓練「レゾリュート・ドラゴン(RD)24」が実施された。RD24は九州や与那国島・石垣島で実施された。嘉手納基地にはF-16やF-22などの外来機が飛来、嘉手納基地の上空を旋回したり、低空で滑走路を通過する「ロー・アプローチ」をくり返した。日米共同軍事訓練も騒音を激化させた。

3 「平和的生存権」も奪い、脅かす「米軍」

(1)オスプレイ飛行

米軍が奪い、脅かすのは「環境権」「教育を受ける権利」だけではない。「戦争や軍隊により生命、身体、健康を脅かされたり奪われない権利」を中核とする「平和的生存権」が侵害されている。憲法前文には、「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」とされている(ゴシックは飯島強調)。「戦争」や「軍隊」により、「生命」「身体」を奪われるかもという「恐怖」を持つことも「平和的生存権」の侵害になる。先に紹介したように、那覇市上空でも「オスプレイ」が飛行する。不快な騒音を出し、頻繁な墜落事故を起こすオスプレイ飛行は「環境権」のみならず、「平和的生存権」も侵害する。2023年11月29日、鹿児島県屋久島沖で米空軍オスプレイ(横田基地所属)が墜落、乗組員8人全員が死亡した。その後、オスプレイの飛行は停止された。ところが2024年3月14日、米軍は沖縄でオスプレイ飛行を再開した。那覇市久米の自宅からは、朝9時25分頃、オスプレイの飛行を確認できた。頻繁に墜落事故を起こしながら墜落原因も明らかにせずに飛行再開した米軍に対し、岸田自公政権は飛行停止を求めもしない。木原防衛大臣は米軍オスプレイの飛行を擁護すらした。沖縄の人たちからは、飛行再開に「怖い」との声があがっていた。

その上、2012年9月19日の「日米合同委員会合意」では、「運用上必要な場合を除き」、「通常、米軍の施設及び区域内においてのみ」ヘリモードで飛行するとされている。ところが那覇市でオスプレイが飛んでいるのを頻繁に見かけたが、「ヘリモード」以外でオスプレイが飛んでいるのを見たことがない。「日米合同委員会合意違反」も常態化している。しかし自民党・公明党政府は「日米合同委員会合意」違反に対し、米軍に抗議等をしていない。この点でも自民党・公明党には「国民を守る」という考えがないことが分かる。

(2)パラシュート降下訓練(パラ訓)

『琉球新報』2024年7月9日付一面。「米軍、嘉手納降下を強行 3か月ぶり 負担、増大の一歩」との記事が掲載されている。米軍は2023年12月から5か月連続で「パラ訓」を実施している。1965年6月11日、米軍が読谷村の読谷補助飛行場での訓練でトレーラが落下、小学5年生の少女が圧死した。こうした悲惨な事件を知る人からすれば、米軍のパラ訓に「恐怖感」を持たざるを得ない。「パラ訓」も住民の「平和的生存権」を脅かす。米軍は伊江島飛行場の状況が悪いことを理由に嘉手納基地でのパラ訓を強行するが、7月10日に米軍は伊江島飛行場でパラ訓を実施した。

4 相次ぐ非人道的な米兵性犯罪

(1)「性的自己決定権や尊厳(憲法13条)を根底から破壊する米兵性犯罪

2023年12月24日、米兵が16歳未満の女性を誘拐の上、性的暴行をした。被害に遭った女性は帰宅直後に泣きながら家族に被害を訴え、家族はすぐに警察に通報した。

2024年5月26日にも米兵の性犯罪が起きた。起訴状などによると、米兵は基地外の本島内の建物で性犯罪目的で女性の背後から首を絞めるなどの犯行に及んだ。女性は両目の内出血や口の負傷など全治2週間のけがをさせられた(『琉球新報』『沖縄タイムス』2024年6月29日、30日付)。

女性たちはどれほど怖かったか。心に深い傷を負ったか。本当に心が痛む。2024年8月2日の憲法研究者有志66人による、「相次ぐ米兵性犯罪に関する憲法研究者抗議声明」が指摘するように、「性犯罪は個人の性的自己決定権や尊厳(憲法13条)を根底から破壊する、卑劣極まりない犯罪」である。米兵性犯罪は「平和的生存権」を脅かす。

(2)言語道断! 米兵性犯罪を隠ぺいした岸田自公政権

市民の安全を守るため、犯罪予防のためには、犯罪があった際には犯罪の事実をひろく社会に伝え、警戒を呼びかける必要がある。ところが岸田自公政権は相次ぐ米兵の性犯罪を「隠ぺい」した。2023年12月の事件、2024年3月の起訴段階で岸田首相や上川大臣は知っていた。一方、6月25日にメディアが報じるまで、玉城デニー知事は米兵性犯罪を知らなかった。その結果、沖縄県は犯罪予防対策をとることができなかった。岸田自公政権は「プライバシー保護」を理由に米兵性犯罪を非公表にしたとしている。「プライバシーの権利」は憲法13条を根拠とする極めて重要な権利である。ただ、多くの識者が指摘するように、場所や時間などを曖昧にすることで、プライバシーの保護を図るのは可能である。

岸田首相や上川外務大臣などが事件を隠ぺいした本当の理由として「政治目的」が指摘されている。4月にはバイデン大統領と岸田首相の会談があった。6月16日には沖縄県議会選挙があった。6月23日には沖縄の慰霊祭があった。これらを自民党や公明党政権に都合よく進めるため、自民党・公明党政府は意図的に相次ぐ米兵性犯罪を隠ぺいしたと批判されている。

岸田自公政権の「米兵性犯罪隠ぺい」は、「沖縄の市民の安全」「犯罪予防」の観点からも言語道断である。2023年12月の事件が知事に知らされれば、沖縄県も被害者女性のプライバシーなどに配慮しつつ、犯罪予防対策がとれた。多くの専門家も指摘するように、2023年12月の事件が公になっていれば2024年5月の性犯罪は防げたかもしれない。東京地検特捜部元検事の郷原信朗弁護士は、米兵性犯罪の隠ぺいは「官邸サイドからの要請で法務省が現場に圧力があったのでは」と推定する(『沖縄タイムス』2024年6月28日付)。長崎地検の次席検事時代に自民党長崎県連の違法献金事件を手掛けた際、法務省の意向を受けた最高検から「国会の関係で発表は控えてほしい」と強い圧力があったという。

さらに岸田自公政権が米兵性犯罪事件を隠ぺいしたため、被害を受けた女性への補償や精神的ケアなどが遅れた。

5 「憲法改正」より「日米地位協定の改定」を

「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の宮城晴美さんによると、1945年以降の米兵の性犯罪は確認できるだけでも1000件を超える(『東京新聞』2024年6月27日付〔電子版〕)。性犯罪の被害を受けてきた女性たちは、「いったい何人の女性が犠牲になれば、気が済むのでしょうか」と発言してきた。ところが自民党・公明党政府、性犯罪被害者てきた女性たちの心からの声に「聞く力」をもたず、被害者女性たちの悲痛な訴えに応える政治をしてこなかった。今回の相次ぐ性犯罪に関して、自民党・公明党政府がアメリカに強く抗議した様子もない。1997年の日米合意に基づく通報手続をアメリカ側が取らなかったことに岸田自公政権は改善要求をしようともしていない。2023年12月や2024年5月の米兵性犯罪に至っては、自公政権は事件を「隠ぺい」すらした。自民党や公明党には心を入れ替え、口先だけでなく本当に国民に寄り添った政治をするよう求めたい。そのためには、不平等な「日米地位協定」の改定、「裁判権放棄密約」放棄などの対応が必須である。日本人と同じ刑事手続に服さないことを認める「日米地位協定」は「不平等」以外の何物でもない。2023年12月の米兵性犯罪事件、米兵被告人は嘉手納基地内で禁足状態に置かれているとされるが、実態は明らかでない。過去に米兵の容疑者がアメリカに逃亡した事例などを挙げ、被告人の管理体制が不透明と新垣勉弁護士は指摘する(『琉球新報』2024年6月29日付)。被告人米兵たちの基地内の行動は自由なため、口裏合わせがなされて有罪に持ち込むのが困難な事件があったことも指摘されている。被疑者・被告人米兵に特権を認める「日米地位協定」の改定は不可欠である。さらに米兵犯罪の被害者への十分な補償のためにも日米地位協定18条は改定が必要である。

その上、米兵犯罪に関して「裁判権放棄密約」が結ばれていたことも明らかになっており、『東京新聞』2014年1月3日付1面は「地位協定の不平等 神奈川で顕著」、「米兵起訴わずか5%」との記事が掲載されている。2008年から2012年の米兵性犯罪は「全て不起訴」になっている。2002年にレイプされたオーストラリア人女性ジェーンさんが懸命に訴えるように「警察捜査」にも極めて問題が多い。「裁判権放棄密約」廃棄も必須である。

さらに沖縄でのさまざまな事例も「日米地位協定」改定を要求する。2021年12月末から2022年1月にかけてアメリカ軍基地周辺でコロナ感染者が増大、2022年1月9日、沖縄県、山口県、広島県に「まん延防止等重点措置」が適用された。政府も米兵の移動がコロナ感染拡大の理由と認めた。2022年1月2日、玉城デニー知事は「十分な感染予防の情報提供もままならない状況をつくり出しているのは、日米地位協定の構造的な問題」と批判した。米軍基地周辺でコロナ感染が拡大した構造的原因は「日米地位協定」9条にあり、日本に入国するアメリカ兵の検疫を日本が実施できなかったためである。

2024年、沖縄島では水不足が深刻な問題となっていた(11ダム貯水率は2月28日午前0時まで44%)、そのためにPFAS汚染対策として停止していた比謝川からの取水を28日10時から再開せざるを得なかった。比謝川をPFASで汚染したのは米軍だが、アメリカ軍は「日米地位協定」3条を根拠に米軍基地内への立入検査を認めなかった。

自民党は「憲法改正は先送りできない課題」などと発言しているが、「米兵犯罪対策」「感染症対策」「環境対策」という視点からも、「憲法改正」より「日米地位協定」改定が先である。

ただ、自民党はアメリカに「日米地位協定改定」交渉も含め、主権国として対応しようとしてこなかった。8月20日段階、すでに自民党総裁選の「メディアジャック」傾向が明確に表れており、「派閥がなくなった」「自民党が変わる」などの候補者の発言が相次いで報道されている。しかし上川外務大臣は国会で米兵性犯罪の隠ぺいは問題なかった旨の答弁をするなど、自民党は変わっていない。さらに今も、自民党や公明党には米兵性犯罪をなくす政治をしようという気配がない。これでは再び米兵性犯罪などが起こる事態を防げない。米兵性犯罪、感染症対策、環境破壊の問題は沖縄だけの問題でなく、全国に関わる問題である。今年10月に衆議院選挙とも報じられている。沖縄の市民も含め、私たちのいのちと暮らしを本当に守るためには、自民党を支援する「メディアジャック」に影響されず、「主権者」として適切な意志を選挙で示す必要がある。