ひろば

【対談】政治の転換に向けて
JAM安河内賢弘会長×山口二郎 (2024.6)

山口 今日はありがとうございます。話を始める前に、まず、安河内さんが会長をされているJAMについて、どのような労働組合なのかをお聞かせください。

安河内 JAM(ものづくり産業労働組合)は1999年に9月9日にゼンキン連合と全国金属機械労働組合(金属機械)が組織統合して結成されました。当初は組合員が50万人いましたが、現在は39万人で、連合の中では5番目に大きな産別になります。中小企業の仲間が多いのが特徴で、従業員100人未満の企業の組合が加盟組合の6割をしめています。組織の運営では、大手の組合も中小の組合も対等に権利を持っています。これは中小労働運動がこの国を救うということ、そして連合の、とりわけ地方連合の運動の中心に、中小労働運動をすえようということを結成の時からの理念としてきたからであり、私たちの共通認識になっています。

山口 わかりました。それではまず今年の春闘についてお伺いしたいと思います。新聞報道等では、大幅な賃上げなど久しぶりに盛り上がったように報道されていますが。

安河内 今年の前に、昨年の春闘が問題でした。大幅な賃上げは実現したのですが、結果として実質賃金はマイナスになってしまった。このようなことは消費税率の引き上げがあった年以外、前例がありません。そのため今年は物価上昇に負けない賃上げを実現しようと取り組みました。結果として、5%を超える賃上げが実現でき、大手は12000円満額回答でした。しかし中小を見ると、42単組がベアゼロに終わりそのうち40単組は中小の組合でした。結果として、中小と大手の格差がさらに広がってしまいました。

山口 そうですか。新聞を見ていると1万円以上の賃上げっていう景気のいい話しか出ていませんね。円安が進む中で、製品を輸出するメーカーは利益が上がっていますが、中小の部品メーカーなどはマイナスが大きいのでしょうね。

安河内 そうです。円安は原材料を輸入している中小企業の利益を、製品を輸出する大手に移転させる構造になっています。中小下請けは円安分の価格転嫁を大手に求めることができず、それを丸ごとかぶっている状態です。この状況の中で、廃業する中小企業が増えてきている。倒産ではないのです。余裕のある今のうちに、ということで。廃業というとなんとなくイメージで、生産性が低いからそうなったというように思われがちですが、全然違っていて、去年の中小企業白書によれば生産性が平均より高い中小企業尾が廃業することで全体の生産性を押し下げる結果になっています。

山口 経済全体にとっては足元がどんどん空洞化するというのは問題ですよね。

安河内 日本の製造業の強みは多彩な中小企業を抱えていることです。その足元が揺らいでいるのです。

山口 大手による中小支配の構図は、個々の企業間の交渉ではもう埒が開かないでしょうから、やっぱり世の中全体としての制度をどう作るかという問題になるのではないでしょうか。

安河内 経団連には、これだけ運動して格差が改善できないのであれば、下請法違反の厳罰化を進めるしかないと言っています。今の下請法違反の罰金は安くて、軽んじられていますが、それを企業の存立に影響を及ぼすくらいのものにするということです。それと同時に賃上げを求めていくことが必要です。そのことによって、各中小企業の経営者が大手へ価格転嫁をせざるを得ない状況にしていくということも必要だと思っています。

山口 今の話を聞いていて、この十数年間進められてきたアベノミクスがもたらした日本経済の歪みがすごく見えてきました。

安河内 大胆な金融緩和は本来カンフル剤であって、ずっと続けていいものではありません。諸外国が政策転換する中で、日本だけそのまま続けていれば、円安になるに決まっています。要するに出鱈目だった、ということなのではないでしょうか。

山口 一方で日本経済の抱えている構造的な問題は先送りされてきました。先にもお話のあった日本の製造業を立て直していくためには、何が必要でしょうか。

安河内 欧州では「シンク スモール ファースト」ということが言われています。「中小企業はヨーロッパ経済の背骨である」ということですが、日本も真似をして色々とやってきた経過がありますが、必ずしもうまくいっていません。中小企業というものは地方に多くあるのです。その立て直しは地方を守ることにもつながります。そのためには、独立系の中小企業を政策誘導で多く作っていくことが一つの方向性だと思っています。しかし、「選択と集中」という言葉が何か本当いろんな分野で猛威を振るっています。中小企業の生産性が低いっていうのは、データ上明らかに間違いです。大きくすればいいというものではありません

山口 なるほど。それと非正規労働者の問題ですが、JAMの組合がある中小企業の場合、非正規労働者は結構多いですか?

安河内 他業種に比べれば少ない方かもしれませんが、多いところは30%くらいが派遣労働者や外国人労働者のところもあります。やはり人手不足は深刻です。ですが、なかなか組織化が進んでいません。現場の組合に聞くと、やはり雇用期間終了後、雇用を守れない難しさがあります。また、派遣労働者の場合、大手も中小も同じ地域・職種では同一の賃金相場なので、なかなか企業内組合の運動では解決していかないことが多い。私は、やはり産別で組織化していくべきではないかと思っています。

山口 わかりました。それでは次に政治の転換に向けた課題についてです。岸田政権の支持率はマスコミ各社の調査で10%台、自民党の支持率も20%台で、4月の国政補欠選挙では立憲民主党の候補が三つの選挙区で勝利し、政権交代を望む声が大きくなっています。安河内さんは今の自民党政治の現状をどのようにご覧になっていますか。

安河内 末期的な状態だと思います、岸田首相の後も何も見えてこない。裏金問題が出た時も本来はその裏金の対策で動くべきだったのに、岸田総理がやったことは派閥の解消で、安倍派の引きずり下ろしでした。自民党の支持率が少々下がっても自分の立場が盤石であればいいというような判断をして動いているので、それがやっぱり国民に見透かされているのだというふうに思います。もうああいう権力闘争を見たくないっていうのが国民の正直な気持ちなのではないでしょうか。

山口 今までのスキャンダルとはやっぱり様子が違っていると思いますね。ちょうどその問題が吹き出したのが今年の確定申告の時期です。みんな領収書揃えて必要経費を計算して申告しているのに、政治家は何だっていう怒りがやっぱ大きかったのではないでしょうか。4月の国政補選を見て、自民党政治の継続か、立憲民主を中心とした転換か、っていう二択の構図が出てきたことは非常によかったと思います。今回の都知事選挙は、今後の政局に大きな影響を与えることになりますが、これも小池さんと蓮舫さんって二択の構図になると思うのです。

安河内 都知事選挙は連合にとっては非常に難しい選挙です。ご案内の通り連合東京は小池さんを支持ということにしています。連合の場合は、推薦、支援、支持と3段階あるのですけども一番緩やかな支持という形で、これは前回と同じ形になります。とはいえ、今回、無所属とはいえ、立憲を代表する政治家が手を挙げて出られています。立憲を中心とした政権をめざしていこうというときに、蓮舫さんを応援しないでいいのか?という思いは、多くの組合員あるいは単組のリーダーの中にもあります。ちなみに私どもJAM東京千葉は自主投票という形での確認をさせていただきました。その上で私は個人的に蓮舫さんを応援していますよという態度表明はやっていこうと思っています。組織ではなくて、個人ということですが。やはり政権交代をしっかり実現したいと思いが非常に強いです。

山口 まあでも個人であっても安河内さんがそういうふうに態度表明してくれるとすごく大きいですね。しかし、今日(6月24日)の朝日新聞の世論調査を見ても東京都は豊かな地域だし、東京で生活をしているいわゆる中流以上の人たちは都政に対してはあんまり不満がないのですね。評価するっていう声が多数派でした。しかし東京にはやっぱりいろんな問題や矛盾があるわけです。貧困の問題は深刻で、そういう人たちに寄り添う政治が東京都からも必要だと思います。それで、東京にはもちろん中小企業がたくさんありますが、東京都レベルの産業政策とか中小企業政策っていうのは、どう評価されますか。

安河内 小池都知事は組織をとても大事にされる方です。私たち連合に対してもまめにいろんなことなる対応をしてくれていまして、連合東京と小池都知事との関係は良好なんです。JAMが東京都に「中小企業振興条例を入れましょう」と提案すると、小池都知事は素早く採用していただいてすぐに入りました。ただ、そこから先に市区町村に条例制定の動きが進むわけでもなく、今のところ実効性が上がっているわけではありませんが、対応はしてくれています。

山口 わかりました。では、国政レベルの話に戻しますが、次の衆議院選挙はたぶん9月の総裁選の後になるわけで、誰が総理総裁になるか分かりません。それでも年末や来年の年明け通常国会冒頭という予想がありますね。安河内さんとしては次の衆議院選挙に向けての展望についてどのようにお考えですか。

安河内 簡単に政権交代が起こるとは思わないですが、それに向けてしっかりと、少なくとも勝ったと胸が張れるぐらいにはやって行けたらいいと思います。そのためには、私たち連合の立場からすると、やっぱり立憲民主党と国民民主党が大きな塊になって、そこが中心となった野党の協力をめざしていきたい。それが連合の力を最も大きく発揮できる道だと思っているのですけれど、現状はなかなかその道筋が見えないでいます。また、日本維新の会をどう見るのかというところは非常に難しい問題ですが、あの党と一緒に政権が取れるかっていうと、それはちょっと無理だなと今のところ思っています。

山口 おっしゃるように一度の総選挙で立憲民主党が多数になって政権交代というのは無理でしょう。次の衆議院選挙の現実的な課題はまず立憲の議席を100台の後半まで増やすということだと思いますね。そうすると次はまた見えてくると思います。そのためにはやはり小選挙区の候補者調整をしなければ、自民党に漁夫の利を与えてしまうことは明らかです。非常に大事な教訓となるのは4月の国政補選の結果で、島根と長崎は、共産党は候補を出さないという形で事実上協力してくれました。選挙の実働部隊はその地域の連合と、部分的には国民にも手伝ってもらって、勝てたということですよね。東京では共産党はかなり表に出て、野党共闘の色彩を全面に出して戦って、あの混戦から抜け出したっていうことでした。私はこれからの野党協力は、その地域ごとに多様なパターンを作っていくしかないと思うんですね。2021年の選挙のように市民連合が間に入って大きな枠を上から作って全国的にこう広げるというのはもうやめた方がいいと考えています。

安河内 我々は共産党というよりは、やっぱり国民民主党の方を見ています。国民民主党の候補も、立憲民主党が本気で応援すればそれなりの戦いはできるはずです。

山口 うーんどうなんでしょうかね。立憲民主党と国民民主党がもう1回結集して、政権の軸になるっていうことは可能なんでしょうかね。

安河内 国民民主党を支持している産別も「大きな塊」を作りたいということについては一致しています。ですから決して無理ではないというふうには思います。そこで、やっぱり課題になるのが、立憲民主党と共産党との距離感ということになるんですが、なかなかそこが難しい。

山口 距離感は、近いように見えるかもしれないけど、やっぱり実際問題、共産党とは政権を共にすることはないわけです。あくまで選挙に勝つための戦術としてお互いに協力はする、自民党政権を倒すために必要な限り、お互いの力を借りるっていうことに留まると私は思うんですけどね。だから連合の皆さんがそんな心配するほどのことはないと言いたいところですが。

安河内 都知事選挙の蓮舫さんの戦い方で、共産党が前面に立って運動していることで票が減るのではないかということを言う人がいますが、私はそれはないと思っています。共産党と立憲民主党が選挙協力をやるということは、少なくとも東京では常識になっていますし、それで逃げる人がいればもう逃げているはずですよね。それにこの間、我々の組織の中でその共産党の党勢拡大で組合員をもってかれたとかいうことも全くないわけで、そういう意味で言うと、そんなことを心配している場合ではないだろうっていう気がします。

山口 そうですよね、やっぱり最大の課題は自民党政治を終わらすことですから。そのためにはどういう勢力を組み合わせてその政権交代の主体を作るかということが最大の課題です。選挙を戦う上ではやっぱり候補者の調整を最大限やる必要があるわけです。そこを割り切るみたいなリアリズムを連合とか国民民主党の関係者にも共有してもらいたいなと思います。

安河内 その前提としては、やはり立憲民主党と国民民主党が一つになってもらわないと連合の力が発揮されないし、それに向けては連合全体が一致をしているというふうに思うんですけど、こえなければならない課題っていうのはやっぱりいくつかあるということですね。それは一つは共産党との距離感ですが、もう一つはエネルギー政策と安全保障政策といったその基本的な政策です。これをどう考えるかなんですけど、エネルギー政策に関しては福島の原子力発電所事故の後に連合で確認した政策があって、これはもうこれ以上でもこれ以下でもないんだろうと思います。さらに憲法とか安全保障とかって話は、これはそれぞれが政治家として、当然なこととして自分の見識を持っていることが必要なわけで、本当にそれが一致しないと一つになれないの?というように思います。それらのことを政党が一つになれない言い訳にしているように思います。

山口 安全保障と言っても、自衛隊や日米安保をなくすと主張する人は立憲民主党にもいないし、憲法の枠の中で現実的な安全保障政策を考えていくという大枠は共有できるはずですよね。あんまり体制論とか抽象的な理念論をやっていてもしょうがない局面だと思います。私はもうむしろ今この世界情勢の中で、安全保障を争点化するのは的外れであり、賢くないとずっと言っています。必要なことは岸田政権が決めたいくつかの重要な安全保障政策、とりわけ防衛費のあの急増に対するチェックです。憲法がどうしたとかの理念論じゃなくて、その現実的な数字の積み上げで議論しなければなりません。5年間で43兆円と言っていますが、物価高だからもっと増えるわけです。それだけの防衛費を本当に賄えるのか、みたいな点を争点にしていかないといけないのではないかと思います。防衛という観点から何にお金を使うの、というところで現実的な議論をしていくというところで、野党が協力をしてくことが必要です。そういう意味で立憲民主党が政策論議の主導権を取って、国民民主党にも共有されるような枠組みを出していってほしいと思います。

安河内 そうですね。立憲民主党と国民民主党が一つになるにしても、一定のインパクトを持った形で一つにならないと、単純にこう立憲民主党が国民民主党を吸収するだけでは意味がないです。

山口 政権をとった頃の民主党は、比例で2000万票ぐらい取っていましたからね。それを再現しなければ。単に立憲民主党と国民民主党を足してギリギリ1200万票とかそんなレベルでは合体する意味はないと言いたい。私は本格的な政治の転換っていうのは1回の選挙で起こせるものではないと思っています。これからの衆院選と同時に大事なのは来年の参院選ですね。2009年の政権交代の前には2007年の参議院での躍進があったわけですから。来年の夏の参議院選挙で、その時に立憲民主党と国民民主党が合同できているかどうか分かりませんが、立憲中心の野党がどのくらい勝てるかということが本当に政権交代の可能性を左右すると思いますね。

安河内 リクルート事件から政権交代が起こるまでにはどのくらいかかったのでしたっけ。

山口 リクルート事件が1989年で細川政権はその5年後ぐらいですね。それでも5年かかっています。ですから時間はかかるのですが、とはいえ、その間、日本のいろんな先ほど来出てきた社会経済の問題は待ってくれないので、本当は政治が早く動いていろんな政策を変えてかなきゃいけないのですけれども。

山口 それでは未来の展望というか、ビジョンや政権構想というか、それらについて考えたいと思います。まず未来を背負う若い人達ですが、私はここ三十年大学で教えていましてこの2年ぐらい学生の雰囲気がちょっと変わったっていう感じがするんですね。政治学のレポートとか、書かせてみるといいレポートが出てきます。正義感が強い若者が増えた感じがします。世の中のいろんな問題に対して厳しい目を向けている若者が多いという感じ、それから政治と関わることをわりと普通に捉えると言う感じの若者が増えた印象があるんですね。政治学のレポートで今度の選挙に投票に行くように、高校時代の同級生に説得をする手紙を書きなさい、っていう問いを出したら、本当にすごいレポートがいっぱい出てきました。一人一人は無力に思えるけれども、やっぱりでもやっぱり皆が動くことによって世の中変わるんだからとか、本当いい意味でまっすぐな文章をたくさん読みました。労働界の方では若い人たちの意識はどうですか。

安河内 私たちもちょうど世代交代の時です。例えばJAMの書記局にはNPOで貧困家庭の支援を続けてきた人や、ツイッターが得意で政治の関係にとても詳しい人、国籍が台湾でヨーロッパの大学に行っていた人など、いろんなアイデンティティを持った人たくさんいて前向きにやってくれています。また、単組で言うと特に地方だと人がどんどんやめていっている現状があります。その中で、自分たちの会社を守るだけじゃなくて自分たちの故郷を守らないと大変なことになると思っている若い人たちが、自主的に勉強会とかをしています。やはり要求して交渉しないと労働組合の中で人は育たないと思っていて、その意味では今はチャンスですね。若い人達が今、どんどんこう労働組合って確かに必要だ、と実感してくれるようになってきています。

山口 2050年とか、さらに21世紀の後半を見据えたいろんな改革や政策づくりを進めていかなきゃいけない時代だと思うんですね。厚労省の社会保障人口問題研究所の推計なんか見ると、もう本当にこのまま手をこまねいていたら、どんどん日本では人が減っていくし、外国人の割合が10%以上になるという人口推計があって、多分21世紀の後半の日本社会の形っていうのは、私たちが生きてきたような時代の日本の社会と全く違ったものになることは必至で、それに向けて政党なり労働組合になり、あるいは学者なりがどうやって対応するかっていうのが今本当に問われているところだと思うんです。さっきもちょっと話が出た人口減少による人手不足、これはもう労働の世界ではもう既に相当進んでるわけです。

安河内 この10年ぐらいずっと高卒の人がいなくて中卒で働いている人の方が多いんですよね。高校を中退したということですけれど。そうなるとそんなに人数がいるわけではないし、高卒で就職しようという人が少なくなったら、地方のその製造業なんか人が取れるはずがない。地域全体で若い人がいなくなってきているんです。やはりまずは高卒の方の賃金労働条件をしっかり上げていかないといけません。

山口 そうですよね。それと野党側の非常に重要な政策のテーマになる外国人労働者の問題です。中小企業の場合、外国人労働者が相当増えていると思うですけども、将来的に日本の社会のメンバーとして、そのどういう風に考えていけばいいんですかね。

安河内 足元のその人手不足の中で、外国人労働者を受け入れていくということは、緊急避難的には重要な政策だというふうに思います。でも外国人の方がどんなに入ってきても今の日本社会だったらその外国人の人たちも少子化になるんですよ。結局その場しのぎでしかない。外国人の受け入れは少子化対策の解決策にはなりえないです。むしろ、足元で共に生きていこうってことをやらなければいけなくて、政策だけじゃなくて、意識改革みたいなところにどれだけ政府がしっかりコミットできるかってところが求められていると思うんですけど、残念ながら自民党は逆行しています。

山口 ですよね。今回入管法を改正しましたが、あの技能実習制度って一応なくなったけども何も変わらないとか。

安河内 問題は何も変わらないです。一番の問題点は、2年間は転職できないというところで。転職を試みると、帰国させられちゃうっていうことですね。それでも8割方は日本に来てよかったって言ってくれていますが、2割ぐらいはもう本当にひどい目にあって帰っているので、これをなんとか変えないといけない。我々はずっと外国人労働者の支援をやっているのですけど、例えばある企業では、外国人には、日本人に配った弁当の余ったものしか食べさせないということがありました。真夏でも金曜日の弁当を月曜日の朝に渡すわけです。そういうことをする日本人が本当にいるんです。この問題を解決するには、移民を受け入れないって言っている自民党の人たちの意識はもう変わらないんでね。政権を変えるしかないです。

山口 そういう意味で、本当に2020年代の後半っていうのは、いろんな意味で最後のチャンスというか、21世紀の後半の日本が健全に生きていけるようにするための改革をする最後のタイミングになりますね。それでは最後にその未来に向けた労働組合の役割についてお聞かせ願えますか。

安河内 私がいつも思っているのは労働組合の組合員っていうのは教育された市民だということです。現場で様々な仕事をしながら、年金のことであったり政治のことであったり税金のことであったりとか、こんな勉強会に参加している人って、組合員以外なかなかいないですよね。そこがしっかり意思を示していくってことは、この国の民主主義にとってとても重要なことだというふうに思っています。やっぱり我々がしっかり力を発揮して、世の中に対してちゃんとコミットして発言をしていくことは、日本の民主主義に必要なことなのだろうと思います。また、ヨーロッパや特にアメリカなどを見ていると労働組合がちょっと復活してきているんですよね。これはやっぱりその労働組合が、自分たちのことだけではなくて、社会全体にコミットしていこうっていうふうに変わってきたってことが非常に大きいと思います。組織ができていようがなかろうが、我々は困っている人達を助けていくことが使命で、組織化はその先にあるんだと思っています。もう一度労働組合が輝きを取り戻すようのも、今が最後のチャンスだと思っています。

山口 市民運動も労働運動もそれぞれいろいろな課題をいっぱい抱えています。これからもいろんな意味で連携しながら、かつ政治を変えていくため、力を結集していきたいなと思います。今日はありがとうございました。

(2024年6月24日@友愛会館)