市民連合/立憲野党インタビュー
自民党政治に代わるオルタナティブ(選択肢)を!
(2024.4)③日本共産党 田村智子さん
岸田内閣と自民党の支持率はともに史上最低レベル。「
佐々木 お忙しいところ今日はありがとうございます。田村さんが日本共産党の委員長に なられてからもう三ヶ月ぐらい経ちましたが、まずは委員長になられてどのような変化が あったのかから、おうかがいしたいと思います。
田村 まずは期待の大きさですね。100 年を超える歴史を持つ政党の委員長にはじめて女 性が就任したということで、立場の違いをこえて喜んでいただいていますし、激励もいた だいています。ジェンダー平等が日本社会の希望になるということが定着しつつあるように思います。
佐々木 昨年の日本のジェンダーギャップ指数は 146か国中 125 位と今でもかなり低いま まです。日本の政治を変えるためには、まずはそのメンバーシップをかえる、つまり、議員の女性比率を増やしていく必要があると思います。
田村 そうですね、政治分野が一番遅れているのは明らかですからね。国会の中でも長年にわたって女性議員の少なさは議論になっていました。ただ議論の中身は、女性が候補者になれるように育てる研修・啓発のあり方というところが中心でしたし、女性の議員を増やさなければならないのはわかるけれど、産休や育休はどうするのかなど面倒な課題がある、という見方があったように思います。私はそこに違和感を持っていて、超党派議員が参加する企画でも、そもそも国会議員に女性が少ないのは、ジェンダー平等が日本の政治の課題になっていないからだと言い続けてきました。この数年、そこが変わってきて、ジェンダー平等の政策の必要性が認識され、議会に女性が少ないのは問題だと、ようやく中身をともなう議論になってきたなと思っています。
佐々木 国際社会から見るとなんか一周遅れみたいな感じですね。しかし、日本共産党を見ていると、自治体議員にも国会議員にも女性が多いですし、ジェンダー平等の取り組みは進んでいる方なのではないですか。田村さんが委員長になられたのもそのような背景があってのことなのではないでしょうか。
田村 そうですね。ジェンダー分野は 4 年前の党大会でも自己改革しようということ宣言 しています。日本共産党も、役員にはまだ女性が少数です。党員はおよそ半数が女性ですから、今後ここをどうやって変えていくのかが課題となっています。
佐々木 委員長が女性になっただけでなくて、山添拓さんや田中悠さんなど若手がどんどん執行部に入っていっているのもいいことだと思います。これから刷新するぞ、というイ メージを強く受けました。
田村 ありがとうございます。中央役員はいま若手から 90 代まで様々な人たちがいます。これまでの運動を継承しながら、みんなで議論してベストな方針を出す、という努力を積み 重ねているところです。
佐々木 さて、先日、田村さんが日本記者クラブの記者会見で「自民党打破宣言」ということを言われていたのを聞きました。なかなか刺激的なタイトルだと思うのですが。
田村 希望あるメッセージを出すときには、勢いのあるものにしなければと。今回の自民党の裏金問題はまさに組織的犯罪行為であって、政策の良し悪し以前の問題です。しかも、裏金にまみれていた人たちが、憲法を変えようとし、ジェンダー平等も阻む中心にいたのです。また、裏金問題で国民の怒りが爆発している背景には、やはり暮らしの苦しさや経済のゆきづまりの問題があると思っています。自民党が企業献金を提供する日本経団連の要望のままに法人税率を引き下げても、結局賃金には回らない。利益は企業の内部留保に回っただけです。人件費のコストカットを応援し、むしろ非正規を固定化するような働き方をつくってしまいました。そこで私たちは経済政策も含めて変えていくプランを持っていますよ、という宣言をしたのです。
佐々木 自民党政治がもうダメなのは、それに加えて、統一教会問題に見られるように、家父長制を温存する時代遅れの思想にも支配されているという点ですね。
田村 ほんとにそうですね。政治がどこに牛耳られていたのか、ということですね。カネまみれというだけでなく、明治時代が懐かしいという前時代的な国家観、家族観にまみれていることに恥じない政治です。
佐々木 そのアップデートできない政治のメッキがようやく剥がれてきていると思います が、この裏金問題などについては、『赤旗』が早い時期から報道していましたね。
田村 そうです。今回の裏金問題はもちろんですが、「しんぶん赤旗」は2004年にも森派(清和会)の裏金を指摘していました。いま自民党の政治家が弁明するような「知らなかった」はずがない。赤旗は、自民党は企業からのお金で政治を歪めているぞ、と言う目で自民党をチェックしてきたからこそ、そのような記事が書けるわけです。
佐々木 そうですね。それで、「自民党打破宣言」ですが、「暮らしでも平和でも希望が見える新しい政治へ」として、「暮らしと経済の再生」、「憲法9条を生かした外交ビジョン」、 「ジェンダー平等」の三つの柱を提案されていますね。今もお話しいただきましたが、 「暮らしと経済の再生」と言うことについて、もう少しお話いただけますか。
田村 「人間を大切にしてこそ経済は再生する」というのが、私たちの改革提案です。アベノミクスも、小泉構造改革もそうですが、大企業がいかに世界との競争で勝ち抜くか、ということに重点がありました。大企業が勝ち抜けば日本の経済は元気になって、利益が国民のところにも回っていく、という考え方だったと思います。だから働く人たちが不安定で低収入の非正規雇用に置き換えられても、それは企業が元気になるためには必要なことだといって、人間を犠牲にしてきた。結局三十年やっても暮らしはよくなりません。輸出で儲ける大企業だけが大儲けしただけで、暮らしも経済もよくなる希望がみえなくなっています。
佐々木 その大企業ですら、今や国際経済の中では競争力を失っていますしね。
田村 やはり目先の利益だけを追求するのはダメですよね。アベノミクスは目先の利益の 最大化で、株価さえ上がればいいと。これは本当に経済停滞、発展できなくさせてしまった。この間、大学の研究者の非正規化の問題を国会でも取り上げてきましたけれども、研究費を競争でとれという。目先の研究成果が問われ、長期的視野を持って基礎的研究を行なっていくことがおざなりになってしまった。ここにも、目先の利益だけを追求してきた政策の責任があると思っています。
佐々木 研究も教育も、数十年先の日本を食いつぶしていますね。やっぱり必要なことは目先の利益ではなくて、一人一人の市民が、子どもや孫の代までしっかり生きていける生活の基盤や希望をつくることですね。
田村 何より安心して働ける環境を整えることが重要です。非正規ではいつ「雇止め」されるかわからない不安がある。低い給料で家賃は高いわけですから、住居を失うかもしれないというぐらいの不安の中で働いているわけですね。安心して働けてこそスキルもアップできると思います。富を生み出す力はまさに人間にあります。安心して働けて、安心して暮らしていける社会を作っていきたいと思います。
佐々木 そうですね。それで次は「憲法9条を生かした外交ビジョン」です。外交と言えば委員長になる前にもこの間、ASEAN を訪問されたのですよね。
田村 とても有意義な訪問でした。ASEAN の事務局次長との懇談では、最初、日本からもっと投資してほしいと言われたのです。懇談のなかで、私たちが平和外交に関心をもっていることが伝わり、対話せずにはいられない「対話の習慣」の重要性、「平和と安定が繁栄の土台」、大国と関わるがどの大国の言いなりにもならないなどASEANの考え方を縦横に話していただきました。やはり ASEANの外交はしたたかで、中国、アメリカ、ロシア、日本から投資を呼び込むために経済連携を進める、その前提は平和と安定ですよねと、対立ではなく対話と協力という関係を大国にも求める。ウィンウィンの関係の外交というのを粘り強く行っているのがよくわかりました。
佐々木 そうですね。日本の場合は、日米安保の話でも存続か廃棄か、アメリカか中国か、 といういいか悪いか、二者択一の議論になってしまう傾向があります。現実的にはどういう多国間の外交をすれば戦争をしなくて済むのか、と言うことが課題のはずですね。
田村 そうですよね。それが憲法 9 条の求めていることなのだと思います。様々な紛争が 起きたとしても武力ではなく、対話によって平和的に解決していくのだと、当たり前のことを 9 条は宣言しています。しかし、自民党は軍事力一辺倒で「戦争の準備」を着々と進めています。日米首脳会談が行われましたが、岸田政権が日本の安全保障政策を根本から変えたことを評価すると。アメリカからはよくやったと言ってほめられる。しかし、世界はアメリカだけではありません。
佐々木 しかもアメリカの同盟国であるカナダだってフランスだって、イギリスですら日 本よりもともっと自立的だと思います。岸田政権は本当に国民を危険にさらしていますよ ね。
田村 そうです。武力衝突を起こさないための外交をどうするのかということを真剣に考 えなければならない。それはもう自民党政治にはできないことです。
佐々木 それでは「自民党打破宣言」もう一つ、最初にも話題になった「ジェンダー平等」 ですが。
田村 今、選択的夫婦別姓制度の実現が大きな課題になっています。これは経済界も含めて実現を求める意見が大勢になっているにも関わらず、自民党の一部が妨害勢力になっていることが誰の目にも明らかになっていますね。同性婚もそうです。札幌高裁の判決は本当に画期的で、婚姻の自由、法の下の平等に照らして、今の状態が違憲状態であるというものです。これに政治がどう答えるかという局面です。私の友人にも、夫婦別姓で子育てもやり抜いた人が何人もいます。誰が誰と家族を作るのかに、ここまで国家が介入していることのおかしさこそ問題にすべきです。この課題こそ、「自民党が下野すれば実現できる」と、いま集会や街頭でも訴えています。
佐々木 夫婦別姓問題でもそうですが、共産党も委員長が変わり、身近なところで、暮らしから始まる具体的なイメージとしての政治をさらに提起してくださるといいのではないかと思います。
田村 たとえば「生理にリスペクトを」と言っていますが、これは結婚や出産という選択をするかどうかにかかわらず、女性にとってとても大切なことで反響は大きいです。また、私は、出産・子育てでいろんな不安や負担を経験しましたから、政治が変われば、こんなに安心や希望が生まれるということを発信していきたいと思っています。
佐々木 「自民党打破宣言」のことはよくわかりました。そこで野党共闘です。この間の最近のある世論調査によれば、次の衆院選で「政権交代のぞむ」が「自公政権の継続」を上回る結果になりました。政権交代をした方がいいって人の方が多い状態です。ようやく国民も目覚めてきました。
田村 自民党政治がここまで末期的状況になっていますから、やはり立憲野党の共闘で、自民党に代わる政治を示す責任があると思います。昨年12 月に、市民連合が立憲野党各党と政策合意を行なった「市民の生活を守り、将来世代に繋げる政治への転換を」が、政策の一致点の土台になります。政党間で、共闘の意思を確認し、共通政策の議論をして、本気の共闘を見せていくことが求められています。基本合意を豊かに発展させようよという議論をしたいのです。政策に違いあるから異なる政党なのであって、話し合うことで「緊急の一致点」を確認できる。一致点から、国民にとって魅力的な共通政策を掲げて、自民党政治以外の選択肢を示していきたいですね。
佐々木 私も田村さんの言う、暮らし、エネルギー、気候危機、ジェンダー平等などでの 「緊急の一致点」を示すことが重要だと思います。そして選挙の結果、どのような政権を作るかは終わった後の問題です。これがヨーロッパで定着している「連合政治」のやり方であり、私たちも学ばなければと思っています。
田村 まず自民党政治に代わるビジョンを示すことが必要です。それを野党が選挙を戦う 土台として示すと言うことが、今求められていると思っています。
佐々木 わかりました。ところで話は変わりますが、田村さんは今とてもお忙しいとは思いますが、休みの時とは何をされているのでしょうか。一番、癒される時というのは。
田村 癒されるのは草花をいじっている時なんですよ。玄関先に小さな花壇がありまして。 植え替えや手入れ、ながめているだけでも飽きません。子ども供の頃から好きだったんですよ。花を見るとなんて名前で、どういう花だろうって知りたくなるんです。
佐々木 そうですか。それは、党内の人もあまり知らない事実なんじゃないですか?(笑)私たちとしては、やっぱりそのような田村さんの人間性みたいのところもをもっと知りたいので聞かせていただいたんですが。
田村 ありがとうございます。実は「自民党打破宣言」も、街頭では「ガーベラ宣言」と言い換えることがあります。ガーベラの花言葉は「希望」です。「希望」が持てる日本の未来、それに向けた提案を、私たちは発信し続けていきたいと思っています。
佐々木 私もエネルギー問題などで未来に「希望」が持てるような対抗軸を作ろうとしています。ガーベラの花言葉でもある「希望」が持てる未来を作っていきたいですね。今日はありがとうございました。今後も連携して頑張っていきましょう。
(2024年4月14日@日本共産党本部)