ひろば

統一教会の本質は「反共謀略組織」
ジャーナリスト 有田芳生(2024.2)

盛山正仁文科大臣への不信決議案が、2月20日の衆議院本会議で否決された。

統一教会への解散命令請求を所管する文科大臣は、教団と「関係を絶った」と言いながら、2021年の総選挙では、「推薦確認書」=政策協定にサインし、信者たちは有権者に電話をかけるなどの選挙支援を行っていたことを隠していた。あれだけ支援をしたにも関わらず教団解散を進める岸田政権と文科大臣への怒りは、「朝日新聞」が信者の証言などをもとに2月6日から報道してきた。記事の背景は書かれていないが、神戸市の古参信者たち〈1800組の合同結婚式(1975年)参加者、6500組の合同結婚式(1988年)参加者〉は、自民党に入党してまで盛山議員を支えてきたため、怒りは収まらず、写真などの情報をメディアに流すことにしたのだ。教団本部と盛山議員に接触していた「世界平和連合」幹部は、当初情報リークに消極的だった。しかし現場の声を抑えきれず、怒りの表明をメディアにリークすることを黙認するしかなかった。ただし岸田政権への批判が必要でも、教団の問題点を同時に報じないなら、バランスに欠けてしまう。

2022年夏の安倍晋三銃撃事件をきっかけに浮上した統一教会問題。自民党政治家との関係、霊感商法などの反社会的問題、さらに2世の苦悩など、メディアの報道はおびただしいものがあった。しかし私の思いでいえば、多くが「ウォーリーを探せ」https://book.froebel-kan.co.jp/book/detail/9784577044773 といった内容が多く、本質に進むことがなかった。議員が教団系の「世界日報」に出た、集会にメッセージを送ったなどなど、すべて悪いかのように報道された。統一教会を知らずに「うっかり」と反共思想に共鳴した「確信議員」とは区別しなければならない。桜田淳子さんたちが出席した1992年の合同結婚式の報道から「空白の30年」があった。その時間に統一教会と関連組織は自民党議員たちに浸透していった。しかしこれも国会議員との関係が組織的に強化されたのは、40年ほど前の1980年代からのことだ。

1986年。中曽根康弘総理のとき、衆参ダブル選挙が行われ、「自民、空前の300議席」(「毎日新聞」)と報じられるほど圧勝した。この選挙のとき、統一教会=国際勝共連合は、自民党議員に組織的に接触、教団を支持する候補者に「政策協定」へのサインを求め、熱心な選挙運動を展開した。当選議員は「勝共推進議員」としてのちに「思想新聞」(1990年3月25日号)に名前が公表された。このとき衆参国会議員は合わせて150人だ。安倍晋太郎、細田博之、麻生太郎などの名前が列挙されている。統一教会の理念に賛同して反共の立場に立つならば、選挙支援を行うという合意だ。私も経験があるが、熱心に行動してくれる選挙運動員ほどありがたい人たちはいない。統一教会の信者たちは、指示に基づいて支援する国会議員候補者のための選挙運動を行う。盛山大臣の場合には、信者たちが朝8時から夜8時まで支援を求める電話を無作為にかけた。

衆参ダブル選挙が終わった1986年8月から統一教会は国会議員秘書養成講座をはじめた。場所は京都の嵐山にあった「嵯峨亭」だ。全国から91人の女性信者が選抜されて集められた。信仰講座、秘書実務、関西地方での「勝共カンパ」実践などを経験して、最後は神戸のホテルでフランス料理を食べながらマナー講習を受けて、養成講座は終わった。信者は国会議員の公設秘書、私設秘書に派遣された。これが1期生だ。安倍晋三銃撃事件が起きた翌月。私は安倍氏と親しい大臣経験者と話をした。信者秘書について聞くと「いっぱいいますよ」と答えて、こう付け加えた。「優秀なんですよ」。私はさらに信仰歴が50年を超える元幹部にも同じ質問をしたが、答えは「いますよ」と同じだった。自民党が行った教団との関係アンケートは、信者秘書が担当したケースもあるだろう。正確なものになるはずがない。

なぜ信者を国会議員秘書にするのか。それは議員に影響力を与えるためだ。かつてはアメリカで脱税のため懲役刑(1年半)を受けたため、日本の入管法の規定(第5条4項〈日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者〉で入国できなかった。それを覆して超法規的に日本を訪れたのは、1992年3月26日から4月1日までだった。このときも多くの政治家に働きかけていた(有田『改訂新版 統一教会とは何か』大月書店参照。秘書養成講座についても紹介した)。警察に強い国会議員に使える「対策費」は月に1億円。さらに家庭教育支援法など、教団の理念を政治に反映させることも目的となった。

ただし注意しなければならないのは、統一教会の自分たちを大きく見せようとする体質に巻き込まれてはならないことだ。天宙平和連合(UPF)の集会に安倍晋三元総理のビデオメッセージを出させたことなどを利用して、内部にも外部にも誇大な組織像を吹聴してきた。トランプ政権が誕生するとき、安倍晋三総理が最初に面会できたのは統一教会の力だという幹部の言説も事実ではない。外務省の成果だ。文鮮明教祖が「世界7か国を支配する」「王の王」になると誇った体質は、日本の組織でも内部で利用されてきた。霊感商法などを行う信者たちの行動を励ましてきたのだ。統一教会を過大にも過小にも評価することなく、等身大の実像を見つめなくてはならない。統一教会の本質は「反共謀略組織」だ。あくまでも事実に基づいて、推測を排除しないと、教団を「日本政治を支配する」モンスターのように描く陰謀論にはまってしまう。霊感商法などで日本社会に多大な被害を与えた統一教会は解散させなければならない。その教団と癒着した自民党を中心とする国会議員、地方議員も同罪である。