ひろば

ガラパゴス化する日本―GX関連法で進む原発回帰【2023.6】

日本ガラパゴス化法案と呼べる2つの法案が今国会に提出され、最終的に5月31日に成立してしまった。議論らしい審議も行われず、数の力で成立させた。一つはGX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)、他は束ねた5つの法の改悪だ。GX推進法は脱炭素化を達成するために今後10年間で150兆円に達する官民の投資を呼び込もうというものである。政府は先行投資を支援する名目で23年度から10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行して各方面にバラ撒く。原発関連には1兆円が当てられている。残りは民間投資に頼るのだが、そのような投資余力が民間にあるのだろうか。

ばら撒き法では、目指すカーボンニュートラルの達成のチェックとそれに基づく対策が曖昧である。後述する原発活用によるCO2削減は奏功するはずもなく、目標とする30年時点で46%の削減(2013年比、90年比でみれば37%)の達成は困難である。

束ね法とは

正式名称は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」である。改悪されるのは①電気事業法、②再生可能エネルギー特別措置法、③原子力基本法、④原子炉等規制法(炉規法)、⑤使用済燃料再処理法である。②は主として系統連系の推進に関わるものだ。大規模開発によるトラブルを避けるための認可事項も含まれる。⑤は廃止措置に対応する積立金を拠出金に変更することに伴うもので、拠出金の徴取と支出の管理を現在の使用済燃料再処理機構に行わせるための変更である。なお、廃止措置は通常の原発の廃炉が対象であり、福島第一原発の廃炉は含まれていない。

以下では、まず①と④について述べ、次に③について述べることとする。

経産省と原発の回帰をめざす電気事業法「改悪」

電気事業法改悪と原子炉等規法改悪は対の関係にある。改悪の概略は、現在の炉規法にある運転期間の条文(第四三条の三の三二)を削除して、電気事業法の中に位置づける(第二七条の二九の二新設)というものだ。新設条文の骨格は、40年を原則として、これを超えて運転する場合には経産大臣の認可が新たに必要となるというものだ。

認可の条件では、設置許可が取り消されていないことや規定違反による行政処分が行われていないことは当然であるが、これに加えて、「脱炭素社会の実現に向けた発電事業の利用の促進を図りつつ、電気の安定供給を確保することに資すること」があげられている。

悪魔は細部に宿るという格言があるが、まさにこれが曲者である。原発を電気の安定供給の上で欠かせない重要電源として位置付けているので、運転延長しない場合は許可がでないことになる。延長された期間めいっぱいの運転が強要されると言っても過言ではない。そして、運転延長しないで廃炉にするなら建て替え(リプレース)せよといった圧力になってくる。新規建設を認めていない公明党との擦り合わせの結果と思われるが、基数を増やす新設は想定されていない。

この改悪によって電力会社に対する経産省の権限が強まったことは間違いない。福島原発事故を受けて、原発の新設や運転に関する許認可権は原子力規制委員会に移った。しかし今、運転期間に関しては経産大臣の認可が必要になった。これは、経産省が福島事故により失った権限を取り戻したと見ることができる。経産回帰である。

60年を超える運転期間について、結果として、停止していた期間のみが延長可能となった。ここで停止期間の定義は、イ)炉規法の審査基準や処分基準の変更に対応するために停止していた期間、ロ)炉規法上の規制に違反して許可取り消しや運転・使用停止命令をうけ、後にそれらの処分が異議申し立てにより撤回された場合の停止期間、ハ)行政指導により停止していた期間、二)仮処分命令により停止し、後に覆った場合の停止期間、などである。原子力事業者が非常に有利になる運転期間復活条件である。

停止期間の詳細は経産省が詰めるというが、大甘の判断基準になるに違いない。

炉規法の改悪の概要

福島原発事故の反省の上に立って設立された原子力規制委員会だったが、事故から12年を経て、その独立性が失われてしまったと言える。

規制員会は2月8に「後継年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要」のまとめを示した。これによれば、30年を超えて運転をする場合には、10年を超えない期間に長期施設管理計画(仮称)を策定して規制委員会の認可を受けなければならない。さらに延長する場合も同様の手続きを繰り返す。延長期間中の変更も同様に認可が必要(ただし、軽微な変更は認可不要)というものだ。運転30年を超える原発では10年ごとのチェックを実施することになっているが、これまでの規制委の議論から、60年を超えても現行のシステムのままだ。

規制委員会では、安全側への改変とは言えないと石渡明委員一人が炉規法改悪に反対を表明。しかし、山中伸介委員長は議論を尽くすことなく多数決で決めてしまった。その理由は、経産省との密室会合で、現在開会中の第211国会への束ね法案提出を決定していたからである。これでは政策と一体となって規制する姿勢であり、規制委の独立は失われたという他ない。

規制委の独立を脅かす原子力基本法「改悪」

基本法改悪では、第一条の目的に「地球温暖化の防止を図る」という文言が追加された。原発は温暖化対策に役立つことを基本法に明記することにしたのだ。客観的かつ科学的に十分な精査もなく、単に運転中は出さないとの経産省の長年の喧伝をそのまま基本法に書き込む、まさに無謀な改悪という他ない。

さらに問題は第二条の基本方針に国の責務と事業者の責務が追加されたことである。国の責務では、原発の活用の促進に必要な措置を講ずる責務、立地地域の理解を得るための必要な取組や立地地域の課題解決へ向けた取組を推進する責務を明記した。逆にいえば、原子力に住民の理解が得られていない(その状態は30年以上も続いている)ことを基本法で認めたともいえる。それはともかく、それらの責務に対して国が講じるべき施策が、原発技術の維持・開発促進・人材育成・産業基盤の維持強化、原子力事業者が安定的な事業を行なえるよう事業環境の整備などである。まさに、故吉岡斉博士が指摘していた「原発介護政策」である。従来は経産省の政策の中だけにあった介護政策だが基本法に書きこむまでに介護が必要になったということだ。そうしなければならないほど、原発が斜陽化していることの裏返しでもある。

原発回帰が進むことになれば、日本はますますガラパゴス化していくと言わざるを得ない。

特定非営利活動法人(認定NPO)原子力資料情報室共同代表 伴 英幸