ひろば

市民連合/立憲野党インタビュー
「第211回通常国会終盤を迎えて(2023.5)」
①立憲民主党衆議院議員 長妻昭さん

市民連合、立憲野党インタビューをお送りします。第1回目は、立憲民主党衆議院議員・長妻昭政務調査会長。インタビュアーは菱山南帆子さん(市民連合)です。

 

【菱山】入管法改正案や軍拡財源確保法案など、悪法乱発の通常国会も終盤を迎えています。このような状況の中で、私たちも国会の外で取り組みを続けています。今日はよろしくお願いします。それではまず、長妻さんか政治家になろうとした動機、あるいは原点をお話しいただけますか。

【長妻】記者として、1990年代のバブル経済崩壊の時に当時の大蔵省を取材しました。不良債権問題など大変な事態になっているのに、大蔵省の官僚は事態の深刻さを理解せず、自分たちで市場をコントロールすればすぐに解決できるという傲慢な態度で傷口を広げてしまいました。これでは良くない、それを正すことは自分でも出来るのではないか、と思ったのが政治家を目指したきっかけでした。

【菱山】私はバブル崩壊の頃に生まれています。後で小説などを読んでこの頃のことを知って、大変衝撃を受けました。

【長妻】そうです。あの頃の後手後手の処理が起点となって「失われた30年」が始まるのです。

【菱山】私はまさに「失われた30年」を生きてきたわけですが、社会は明らかに悪い方向に進もうとしていると感じます。「新たな戦前」とも言われる中で、残念ですが、周りにはあきらめにも似た感覚が広がっています。

【長妻】そうですね。私たち以上の世代では、社会に出て普通に働けば給料がどんどん上がり、豊かになるのは常識でした。しかし、今はそうではない。私は、今こそ、人を大切にするという原点に戻ることが必要だと思っています。今の社会では、一人一人の持ち味が潰されている。それを持ち味が活かせるように、障壁になっているものを壊していかなければなりません、行きすぎた自己責任論、格差拡大、多様性を認めない政治を大転換しなければ、人の持ち味が活かされません。自民党のLGBTの法案に関する「骨抜き騒動」はある意味典型で、人権意識の希薄さを露呈したものだと思います。

【菱山】そうですね。横に繋がっていかなければならない時に、岸田政権はそれをブツブツと切る方向に進めていると思います。そんな中で、立憲民主党として何か希望を与えてほしい。若い人たちに「私たちがやったらこういう社会になるよ」と、強いメッセージを出して欲しいと思います。

 

【長妻】私は、目指すべき社会は、「すべての人に居場所と出番がある社会」と言っています。自由に声をあげられる社会、「国のために人がいる」のではなく、「人のために国がある」という発想です。今の政治はここがあべこべなのです。私たちは、生活している個々人を支援する発想で政策を考えますが、今の政府は組織を支援して、それが個々人に波及する、という順番で政策を作っています。ここを逆転しなければならない。そして、個人の権利が侵害されているとなれば、きちんと声を上げることができる社会にしなければなりません。

【菱山】今は「社会が悪い」ではなく「自分が悪い」という発想になっています。そうではなく、権利が侵害されたら、社会に対して異議を申し立てていくことが必要だと思います。

【長妻】ある欧州の国の大学から日本の大学に来た方の話ですが、母国の大学生の主な話題は、「政治、恋愛、芸能」だったそうです。それが日本では、「恋愛、芸能、就職先」で政治がすっぽり抜けていると。と。学校でも職場でも政治があまり語られない、このような国は珍しいのではないでしょうか。個人の頑張りだけが強調され、社会構造の問題が議論されない。2015年の放送法の不当な解釈変更もこの状況に拍車をかけました。テレビ局の番組は上からのチェックが厳しく入るようになって、政治の問題が扱われ難くなってきたと感じます。特に地上波で、国会議員が丁々発止の議論をする番組など、本当に珍しくなってしまった。さらに小学校、中学校に導入された道徳教育によって、愛国心を含む道徳に成績がつけられるようになり、国を批判し難い雰囲気が作られているように感じます。

【菱山】そのような状況の中で、自民党は憲法改悪を目論んでいます。

【長妻】そうです。自民党は、立憲主義を理解していないのではないでしょうか。憲法は一人一人の人権を守るためにあるもので、国家権力が個人の自由に入り込めないように国にタガをはめることが大きな使命です。緊急事態条項にしても、9条に自衛隊を書き込む案にしても、軍事力や国家権力への歯止めが効かなくなることが問題です。

【菱山】岸田政権は憲法改悪と同時並行で大軍拡を進めようとしています。こちらも止めていかなければなりませんね。

【長妻】防衛費の43兆円にしても、根拠が、希薄な数字です。情報収集能力の強化など、必要なことはありますが、大枠はアメリカの要請で進んでいるというのが実態で、必要性を吟味していない倍増ありきの予算額です。さらに問題なのは、年金特別会計に入れる取り決めの財源を防衛費に流用すると同時に、建設国債を初めて防衛費に使えるようにしたことです。防衛費を確保するために増税をする、ということであれば国民に信を問えますが、建設国債であれば、当面は国民に痛みをともなわずとも財源を確保できてしまいます。

また、敵基地攻撃能力について、密接に関係する他国に武力攻撃の着手があり存立危機事態と判断され三要件が満たされれば、日本が、武力攻撃を受けていなくとも相手国の領域内に日本からミサイル攻撃ができるという所まで可能にした点について、政府は「使わないが念のために」という姿勢です。ですが、過去の歴史を見れば、「万が一のため、念のため」と保有した軍事力は目一杯使われがちです。「専守防衛」を逸脱しないように歯止めをかけられる仕組みが必要ですが、このままではストッパーがなくなってしまいます。

【菱山】外交努力が政治の役割なのに、岸田政権はそこをすっ飛ばして大軍拡を行い、憲法9条を無効化しようとしているように見えます。

【長妻】安全保障のジレンマというもので、「あくまで抑止力だ」と言っても、どこかで歯止めをかけなければ軍拡競争を煽りかねないものです。このままいけば日本は軍事費で世界第3位となります。相当大きな軍事力を保有することになります。「専守防衛」のタガをはめることが必要ですし、その上での外交努力が必要です。歯止めのない軍事費への建設国債の充当などもってのほかです。

【菱山】私は歌舞伎町の夜まわりなどをして、女性の相談会を開いています。若い女性の貧困の問題も深刻です。生活保護もなかなか受けられない。本当はもっとそこにお金を使って欲しいのです。

【長妻】安全保障と生活保障と、二つの保障が必要なのです。日本国憲法25条の規定は、国民には生存権があり、国家には生活保障の義務があることを明らかにしています。生活保護の制度にしても、家族に援助が可能か問い合わせる「扶養照会」が 生活保護の申請を阻む壁になっています。生活保護は権利です。「個人の努力」が足りないということではありません。そして、その権利をきちんと認め合うことで、経済も社会も発展するのです。

【菱山】同感です。では最後になりますが、衆議院選挙も近いと言われている中で、みなさんにメッセージをお願いします。

【長妻】小選挙区制度は一気に情勢が変わる制度です。私たちも悲観することなく、政権に近づいていけるように闘ってっていきたい。安全保障についても歯止めが必要なことをしっかり訴えていきたいし、一人一人の持ち味が潰されている、今の同調圧力の強い社会のありようを変えていこうと訴えていきたいと思います。人間には「マインド」「ハート」「ソール」があると言われています。政策的な「マインド」だけではなかなか人の気持ちは動きません。みなさんの「ハート」が動くような迫力を持って、訴えていきたいと思っています。

【菱山】今日はありがとうございました。ともに頑張っていきましょう。

2023年5月17日@衆議院議員会館・インタビュアー・菱山南帆子(市民連合)

 

【長妻昭 衆議院議員プロフィール】
東京生まれ。慶応大学法学部法律学科卒業。日本電気株式会社、日経BP社を経て2000年6月、衆議院議員初当選。厚生労働大臣、民主党代表代行、民進党代表代行、旧立憲民主党代表代行・政務調査会長・選挙対策委員長、立憲民主党副代表などを歴任。現在は立憲民主党所属の衆議院議員、立憲民主党政務調査会長、立憲民主党東京都連合会長、立憲民主党ネクスト内閣官房長官。