コラム

民主主義を壊す「国会議員の任期延長の改憲論」【2023.1】

【はじめに】

昨年の臨時国会では、5回にわたって衆議院憲法審査会が開かれました。その中で議論の焦点となっているのが、「国会議員の任期延長のための改憲」であり、「緊急事態条項」と呼ばれるものです。本稿では、この改憲論の危険性について、考えてみます。

【1】「国会議員の任期の延長の改憲論」とは

憲法45条では、「衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する」と、憲法46条では「参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する」と、それぞれ国会議員の「任期」が定められています。

衆議院憲法審査会では、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の「改憲5会派」は、緊急事態が発生して選挙できない場合でも「国会機能」(「立法機能」・「行政監視機能」)を維持するため、国会議員の任期延長の憲法改正が必要だと主張しています。

衆議院に関しては、

  • 衆議院の解散後に緊急事態が発生して選挙できない場合
  • 任期満了時に緊急事態が発生して選挙できない場合

という事態を想定し、任期延長のための憲法改正を主張しています。2022年12月22日、公明党の北側一雄議員は「一番合意形成に近いところに来ている」、「来年の通常国会ではこの論点に限られないが、議論を集約できるように取り組みたい」と語りました。

2023年の国会では、国会議員の任期延長の改憲条文案作成、国民投票が「現実味」を帯びる可能性があります。

【2】憲法による緊急事態への対応

ここでは緊急事態に対して憲法がどのような対応を想定しているかを紹介します。

1946年7月15日、衆議院帝国議会憲法改正委員会で緊急事態条項が必要との質問がありました。その質問に対し、金森徳次郎国務大臣は以下のように回答しました。

「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護致します為には、左様な場合の政府一存に於いて行ひまする処置は、極力これを防止しなければならぬのであります」。

では、緊急事態が発生したらどうするか。金森徳次郎国務大臣は以下のように答弁します。

「臨時議会を召集して之に応ずる処置をする、又衆議院が解散後であつて処置の出来ない時は、参議院の緊急集会を促して暫定の処置をする」。

緊急事態条項に基づき、たとえば関東大震災の際には朝鮮人や中国人、日本人も虐殺された歴史があります。こうしたことに対する反省を踏まえ、「緊急事態条項」は憲法に導入されませんでした。

そして万が一、緊急事態が生じたら、臨時国会による対応 → 参議院の緊急集会の対応を想定しています。

主権者が直接、選挙で選んだ国会議員で構成されるため、国会は「国権の最高機関」(憲法41条)とされます。こうした「国会」が緊急時にも中心的な役割を果たすべきとの視点から、憲法では「臨時国会」、さらに「国会の代行機関」としての「参議院の緊急集会」で対応することが想定されています。

【3】「議員任期延長改憲論」の問題点

では、緊急事態に国会議員の任期を延長するための憲法改正が必要かどうかを検討します。

まず、「国会の機能維持」が目的であれば、参議院議員の任期延長は必要ありません。参議院は3年ごとに半数の改選なので、参議院議員が一斉にいなくなることはありません。

次に衆議院ですが、任期満了時に緊急事態が発生して選挙ができない場合について、長谷部恭男教授は「任期が切れる前に、余裕をもって選挙期日を設定しておけばいいだけのこと」と主張します(『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(集英社、2017年)176頁)。改憲5会派はこのレベルの話を国会で延々としていることも知ってください。

さらに日本弁護士連合会や兵庫県弁護士会が声明で指摘するように、緊急事態が生じても「選挙」が任期内に実施できるよう、公職選挙法改正等での細やかな対応を予め整備することが先です。公選法や国会法改正等で対応できるかどうかの十分な調査と議論もせず、いきなり任期延長の改憲論を主張するのは国会議員として怠慢です。

そして緊急事態が生じても、選挙ができる地域では選挙をおこない、選挙できない地域だけ「繰延投票」(公職選挙法57条)で対応できます。さらにそれでも選挙が困難な場合はどうするか。方法はあります。

長谷部恭男早稲田大学教授、高見勝利上智大学名誉教授、土井真一京都大学教授、山内敏弘一橋大学名誉教授、そして私も、衆議院の任期満了に際しても憲法上、「参議院の緊急集会」の類推適用で対応可能と主張してきました。参議院の緊急集会の目的は、衆議院議員が存在しない場合の緊急対応です。こうした目的からすれば、任期満了時でも参議院の緊急集会は可能です。

任期満了時に参議院の緊急集会を開催できるとは憲法に書かれていないと改憲5会派は主張しますが、憲法で明記されていることしかできないのであれば、衆議院の解散も69条の場合、つまり内閣不信任決議が出された場合しかできないはずです。

【4】緊急事態対応のための臨時会

改憲5会派は、緊急時に際しても国会機能の維持(立法機能・行政監視機能)のため、「国会議員の任期延長」の憲法改正が必要だと主張します。立法機能や行政監視機能を、最近の国会は果たしてきたのでしょうか。

2017年、森友学園問題の調査のため、野党は憲法53条に基づいて臨時会の召集を要求しました。ところが安倍自公政権は98日間も国会召集要求に応じませんでした。

2020年、2021年、コロナ感染拡大という「緊急事態」でした。野党は憲法53条に基づく臨時国会開催を要求しました。しかしどちらの場合にも臨時国会は召集されませんでした。コロナ感染拡大という緊急事態にもかかわらず、自公政権は国会を開かなかったのです。「国会機能の維持が重要」として議員任期延長の憲法改正を主張する資格が自民党や公明党にあるのでしょうか。

先ほど金森答弁で紹介したように、臨時国会も緊急事態に際しての「国会機能維持」のための重要な制度です。国会機能の維持が重要というのであれば、なぜ2017年、2020年、2021年に臨時国会が開かれなかったのか、国会法102条の6に基づいて徹底的に調査すべきです。

【5】不要どころか民主主義を壊す「議員任期延長改憲論」

国会議員の任期延長を認める憲法改正がなされれば、緊急事態を名目にして選挙をせずに国会議員の地位に居座り続けることができます。最近、パパ活疑惑で自民党を離党した「パパ活議員」、選挙がなければずっと国会議員のままです。

なにより緊急事態を名目に選挙が延期され続ければ、民意に基づかない長期政権が続く可能性があります。任期延長の憲法改正は民主主義を破壊する危険性があるのです。

こうした憲法改正を私たちは認めるのでしょうか? 憲法改正国民投票には総務省の試算でも850億円かかります。主権者として適切に声をあげることが必要です。

飯島滋明(名古屋学院大学教授/憲法学・平和学)