2022年沖縄県知事選レポート
~宜野湾市トリプル選挙も添えて~ 【2022.9.29】
1.誰一人として知事を“ひとりにさせない”:沖縄県知事選挙
2022年、今年の沖縄は日本復帰から50年の節目の年であり、アメリカから日本へ施政権が返還された「1972年」を歴史的に振り返る日々であった。そうした中で、沖縄県民にとってビックイベントである沖縄県知事選挙の年が重なるということは、これはもう何かの運命であり、あらためて「辺野古新基地建設NO!」を訴え続けた玉城デニー知事が再選されたことに大きな意味を持つ。前回の県知事選挙では、2018年7月にガン治療中であった前県知事の翁長雄志氏が命がけで辺野古埋め立て承認撤回を表明し、任期途中の同年8月8日に急逝された。そうした中で、翁長氏の遺志を受け継ぐ玉城デニー知事の存在は大きく、過去の知事選のなかで最多得票となる39万余票を獲得した。アメリカ海兵隊員の父と沖縄女性の間に生まれた玉城デニー知事は日本で初めてミックスルーツを持つ県知事であり、沖縄の戦後史を表す象徴そのものであった。
2018年から今年にかけて沖縄は困難の連続であった。首里城火災や豚熱、軽石災害に加え、新型コロナウィルスへの対応については、県民の間でも意見が分かれた。沖縄は子どもの貧困率が全国一高く、基地問題よりも貧困対策、経済対策を優先すべきと声が高まり「基地か経済か」で県民同士を分断する。構造的差別のもとで、私たちが対峙しなければならないのは権力者である日本政府であり、この構造は50年経過しても変わらない現実がある。玉城デニー知事は選挙期間中の街頭演説でこう訴えた。「沖縄で、県知事選挙で政府を相手に選挙に勝つという意味を“みなさん“しっかりとかみしめてください。勝ってこれが沖縄県民の力だと民意だということを堂々と政府に申し上げたい。(中略)沖縄県民の民意は絶対に1ミリもブレていないということを示していきましょう」そして、「誰一人取り残さない」と締める。オール沖縄という共闘体制をリードし、政府へ物申してきた翁長雄志前知事の遺志を引き継ぐ玉城デニー知事を、私たち県民は「誰一人として知事を“ひとりにさせない”」覚悟で取り組むことが必要だ。翁長前知事のように命を削らせてはならない。沖縄では、ロシアによるウクライナ侵攻から台湾有事を煽り、日米の共同作戦の準備を進め、琉球弧を再び戦場にしようとする動きがある。沖縄はいつになったら軍事化の地理的優位性の呪縛から解放されるのであろうか。
2.市民と野党の共闘:宜野湾市長・市議選挙
次に、宜野湾市の選挙についても振り返りたいと思う。普天間飛行場を抱える宜野湾市は、米軍基地由来の爆音や空からの落下物に震え、PFAS汚染の実態について連日報道されていた。そうした中、宜野湾市では県知事選挙に加え、市長選挙と市議会議員選挙の史上初トリプル選挙を迎え、現職の松川市長に対して、オール沖縄側は仲西春雅氏を擁立した。地元紙では前回と同じ構図から「リベンジ選」と報じられる程度であったが、市民連合のコラムになる以上、内実について申し上げたいと思う。それは、市民連合のスローガンである「市民と野党の共闘」そのものであった。そこには「宜野湾ちゅら水会」の存在がある。同会は、PFAS汚染に取り組む市民団体で、行政に対し住民の血中濃度や土壌調査を求める活動を積極的に行ってきた。活動のなかで、宜野湾市議会の野党議員の構成が26議席中4名しかいないことに問題意識を持ち、会のメンバーが立ち上がり、市長候補には仲西氏、市議会議員候補には新人3人、現職1名が挑戦した。女性の地位向上を目指し活動されてきた座間味万佳さんは立憲民主党から出馬し、先祖代々の土地で農家を営む宮城優さんは日本共産党から、36年間英語教師として教鞭をとり、平和ガイドとして活動したプリティ宮城ちえさんはれいわ新選組初の地方議員として注目を浴び、8期目に挑戦した無所属のベテラン市議である桃原功さんに加え、仲西氏を支える候補には社民党推薦の屋良千枝美さんもいた。リアル市民連合である。残念ながら、仲西春雅市長誕生には力及ばなかったが、同会のメンバーは全員当選、仲西氏を支える候補者は8名当選、1名次点であった。投開票日の夜、落選が決まった選対事務所内で、仲西氏は支持者へ向け明るく話した。「私の願いは9名の市議候補全員が当選することであり、出馬した動機もそれである。人事は尽くした。悔いはない」とした。宜野湾ちゅら水会が中心となっておこした運動から沸き上がったエネルギーは、有権者に伝わり、実際に市議会の構成を変えた。野党の議席は倍増、与党の議席は改選前から2議席減らした。少しずつではあるが、確実に前進している手ごたえがある。
3.ローカルの現場から起こす「民主主義」の実践
「選挙イヤー」の今年、沖縄は10月に県都那覇市と隣接する豊見城市の首長選挙を控えている。オール沖縄を構成する組織にも多くの課題がある。市民の声をボトムアップで拾い上げる仕組みは整っておらず、組織内にジェンダー平等の感覚を持った人がどれくらいいるのだろうか。私たち若手世代は、ローカルの現場から「民主主義」の実践を行い、両輪体制で政府へ声をあげ続ける。復帰から50年、オール沖縄の枠組みのきっかけになったオスプレイ配備に反対する動きから10年目を迎える。先人たちの平和を願う想いを継承しながら、学び、ともに行動する仲間は少なくない。新しい息吹から風を起こす準備を整えているところだ。
【プロフィール】まつだかなこ。沖縄県出身。県内大学修士課程在籍。