ロスジェネには時間がない/雨宮 処凛(作家・活動家)【2022.5】
この夏の参院選が終わると、3年間、国政選挙はないらしい。
2025年。あなたは何をしているだろうか。
この国はどうなっているだろうか。
そしてあなたは、何歳になっているだろうか。
5月9日の市民連合のシンポジウムで、私は3年後、50歳になっていると話した。
その時、怒りで涙ぐみそうになった。
どうしてか。1975年生まれの私はロスジェネ(現在30代後半から40代後半)で、そう呼ばれるきっかけはバブル崩壊だ。
が、バブル崩壊は91年、すでに31年前だ。それをきっかけに就職氷河期が到来し、正社員になれない若者たちが注目されたわけだが、その氷河期世代はもう50歳に突入しようとしているのである。
「景気回復までのつなぎ」のつもりで始めた非正規の生活が30年近くに及び、ずーっと月収20万円以下で暮らす人々が一定数いるのがロスジェネである。もちろん、その状態だとなかなか結婚や出産に前向きにはなれない。
同じロスジェネである社会学者の貴戸理恵さんが、『現代思想』19年2月号に書いた原稿にこんな言葉がある。
「いちばん働きたかったとき、働くことから遠ざけられた。いちばん結婚したかったとき、異性とつがうことに向けて一歩を踏み出すにはあまりにも傷つき疲れていた。いちばん子どもを産むことに適していたとき、妊娠したら生活が破綻すると怯えた」
これは多くのロスジェネの実感ではないだろうか。
このような問題に対して、私は31歳の時から16年間、声を上げてきた。当初は、自分たち年長ロスジェネは団塊ジュニアでベビーブーム世代だから、雇用を安定させればそれは必ず少子化改善にも繋がるなどとも訴えた。政治家を動かすには、そういう言葉が必要だと思った。
だけど私たちの声は、結果的にはどこにも届かなかった気がする。そして多くのロスジェネ女性は出産が可能な年齢を過ぎつつあり、もう50歳になろうとしている。
強調したいのは、これは何も、ロスジェネだけの問題ではないということだ。一度「非正規化」という穴が空いてしまったら、それを防ぐのは至難の技だ。雇用の不安定化、非正規化は下の世代にしっかり受け継がれている。
例えば21年の労働力調査によると、35〜44歳の非正規雇用率は27・1%。45〜54歳の非正規雇用率は31・0%。これが25〜34歳になると22・5%と少し低くなるものの、15〜24歳では48・8%と約半数だ。
そんな非正規で働く人の平均年収は176万円。圧倒的に数が多い女性非正規に限ると153万円だ(2020年、国税庁)。
この2年強、コロナ禍での困窮者支援の現場にいるのだが、私が所属する「新型コロナ災害緊急アクション」には、連日のようにSOSメールが届いている。その数、2年強で2000件以上。
「所持金ゼロ円」「3日間、何も食べてません」「一週間前、ホームレスになりました」等々。
多くが極限状態で、メールをくれる人の6割を占めるのが10〜30代。83%がすでに住まいを失っており、半数は携帯が止まっている。そして多くが、非正規の仕事をなんの保証もなくコロナで切られた人々だ。
「コロナによる貧困」が注目されているが、ある意味、コロナはきっかけにすぎない。もともとこの国の政治は30年近くかけて、「何かあったら生活が根こそぎ破壊される層」を増やし続けてきたのだから、当然の帰結なのだ。
私が反貧困の運動を始めた16年前、「どうせ俺の将来ホームレスですから」と言っていた日雇い派遣の男性は、最近、本当にホームレスになった。
08年末、リーマンショックを受けて開催された「年越し派遣村」に来ていた男性は、その後生活保護を受けたり派遣で働いたりしていたものの、コロナ禍で再び仕事も住まいもあっという間に失った。
3・11で仕事がなくなり寮を追い出されたサービス業の女性は、コロナ禍でまた仕事がなくなり寮を追い出された。
経済危機、災害、感染症の拡大と、「何か」があれば一気に路上に押し出されてしまう人たち。そして現在は物価高を受け、住まいがある人々も炊き出しや食品配布に並んでいる。
16年間声を上げてきたのに、何も変わっていないどころか悪化している現実に、反貧困運動を担ってきた一人として力不足を痛感し、恥じている。
同時に思うのは、この現実に、与野党問わず向き合ってほしいということだ。
3年後、50歳となるロスジェネは多くいる。私たちには時間がない。野党が一丸となって、参院選に向かってほしいと思っている。
【プロフィール】
1975年北海道生まれ。著書に『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の
底が抜けた』『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』など多数。