コラム

「M+1」の法則と市民連合の役割/小原 隆治(早稲田大学政治経済学術院教授)

政治学は経済学に嫉妬し、経済学は物理学に嫉妬するという話がある。法則の定立や証明が科学のすべてではないにしても、もっとも重要な構成要素の1つであるには違いないから、科学たろうとする学問にそんな嫉妬心が生まれても不思議はない。

小原 隆治さん            (早稲田大学政治経済学術院教授)

法則科学の性格が強いとはいえない政治学にあって、そのなかでは計量的な処理に適し、法則をめぐって議論することが多いのが選挙や政党を対象とする研究分野である。「『M+1』の法則」も選挙に関連して語られる法則の1つである。

かつて政治学者M.デュヴェルジェは、選挙制度が小選挙区制だと政党システムは2大政党制に、したがってまた各選挙区の有力候補者数は2人に近づき、選挙制度が比例代表制だと政党システムは多党制に向かうと指摘した。デュヴェルジェの法則といわれる。そしてS.リードがこの指摘の前段部分を戦後長らく日本で実施されてきた中選挙区制に応用し、選挙区での有力候補者数は定数Magnitudeプラス1で均衡するとして定式化/汎用化したのが「M+1」の法則である。リードは有力候補者数が3人区なら4人、4人区なら5人、M人区ならM+1人で均衡することを見事に実証している。

もっともリードは後年になるほど「M+1」の効果が及ぶ対象を候補者数に限定し、政党システム、端的には有力政党数への影響には言及しなかったように思える。その理由に関してだが、もともとひとくちに中選挙区制といってもMにはかなりの幅があった。そのうえ日本の場合、今日にいたるまで国政選挙、自治体選挙それぞれのレベルで水平的に、さらに両レベルを通じて垂直的に、多種多様な選挙制度が併存している。であるなら1つの選挙制度だけを取り上げ、政党システム全体への影響を語ることは難しい。リードはそう判断したのではないかと推測する。

では現在、国政選挙の本丸にあり、衆議院465議席中289議席を決める小選挙区制の影響をどう考えればいいのだろうか。確かに近年、有力候補者数がM+1=2人に落ち着く傾向は観察できるものの、2大政党制に向かう動きは見られない。だからリードと同じく抑制的な見方をしたほうがいいのだろうか。

この点で大きな示唆を与えてくれるのが、中北浩爾(2019)『自公政権とは何か』ちくま新書である。中北は政党ブロックという概念を使う。それにならえば、現状は衆議院小選挙区(参議院1人区も同じ)の有力候補者数が2人に収斂するのと呼応して、政党システムはおおむね2大政党制ではないけれども2大政党ブロック制に向かっていると整理できる(同上書94〜95頁を参照)。自公ブロックと立憲野党ブロックである。その限りで「M+1」の法則が政党システムのあり方にも作用していると考えていい。

中北は、自公ブロックの両党がこの20年あまりほぼ継続して政権にあった実績をのりしろに、いかにして安定した関係を築き、また、盤石の候補者調整を行ってきたかを説く(中北浩爾(2017)『自民党』中公新書も参照)。それに対して立憲野党ブロックの各党はどうか。2016年参議院1人区選挙から2021年衆議院小選挙区選挙にいたるまで、ブロック内で相応の調整努力と実績を積み上げたにしても、それが自公ブロックと比肩しうるほどの水準に達していないことはまったくはっきりしている。

市民連合が必要とされる理由はそこにある。本来、政党間協議で進めるべき候補者調整がなかなか進まない。だから全国版の市民連合が共通政策を提起し、それをのりしろに立憲野党間の距離を縮める努力をする。また、小選挙区単位で組織された地域版の市民連合が全国版共通政策を地域特性に応じてアレンジし、各党予定候補者に働きかけ、地域向けのさまざまな企画を打ち出し、それらをのりしろに候補者一本化に向けた努力をする。候補者調整は結局のところ個別具体的に進めるしかないから、その点で地域版市民連合の役割は決定的に重要である。

別の言い方をすると、地域版市民連合はただ「野党は共闘」を一つ覚えに唱え、候補者調整は政党に任せ、一本化されたら統一候補の応援団に徹すればいいのではない。政党のほぼイコールパートナーとして候補者調整に関わることに、地域版市民連合のもっとも重要な役割があるのではないか。立憲野党も市民もそのことにもっと自覚的であるべきではないか。わたしはそう思う。

繰り返すが、候補者調整は本来、自公ブロックがそうであるように政党間協議で進めるべきものであって、だから立憲野党ブロックが成熟すれば、全国版であれ地域版であれ、市民連合が政党をつなぐ役割は消えてなくなる。その意味で市民連合は過渡期の存在である。わたしは市民連合が無用になる日が一日でも早く来てほしいと願う。

だが、その日が来るまで立憲野党ブロックのために、立憲野党ブロックによる政権交代のために、市民連合は力を尽くすしかない。わたしたち一人ひとりの市民もブロック内勢力をどうしたらつなげるか、これでつなげるのかを問い直し、地を這い、砂を噛みながら力を尽くすしかない。

【参照URL】

https://www.youtube.com/watch?v=pvV7V5RpHE0

http://jichisoken.jp/column/2022/column202201.htm

【こはらたかはる 早稲田大学政治経済学術院教授。東京1区市民連合前共同代表、ねりま9区みんなで選挙(ねり9)共同代表】