ひろば

インタビュー<核兵器禁止条約と日本政治の責任>/核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員・川崎哲(ピースボート共同代表)

ピースボート共同代表の川崎哲さんは核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)による核兵器禁止条約の成立・発効のためのキャンペーンで大きな役割を果たされています。このインタビューはロシアのウクライナ侵攻の前に行われたものですが、ここでお話頂いています「核兵器禁止条約が、核兵器の無い平和な世界を作り上げていくうえで必要不可欠である」という論点は、いまやより重要になったと言えます。

*ウクライナ侵攻後の川崎さんの見解は次のWEB記事をご覧ください。

やはり核兵器禁止しかない――ウクライナ危機から考える | 川崎哲のブログとノート (kawasakiakira.net)

▼ICANやピースボートでの取り組みについて教えてください。

川崎哲さん/核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員

ICANとは、2007年に誕生したNGOの連合体です。2011年にスイス・ジュネーブに国際本部を立ち上げ、現在世界600以上の団体が100カ国以上から参加しています。11の国際運営団体があり、私はそのうちのひとつ、ピースボートを代表して国際運営グループに関わっています。ベアトリス・フィン事務局長を中心として定期的にオンラインで会議を行い、取り組みを進めています。ICANでは核兵器禁止条約を中心に核廃絶を達成しようという方針があり、2017年に条約ができるまでは、条約作りの後押しを、2017年に条約ができてからは、条約に署名・批准する国を増やすことに力を入れて活動してきました。その結果、条約の発効に必要な50カ国が達成され、昨年1月に条約が発効されました。今年の6月に第一回締約国会議が開かれるため、現在はそれに向けた取り組みをしています。日本を拠点としたピースボートでは、広島や長崎のメッセージを世界に伝えるため、ピースボートの船を使い被爆者の方の証言会を各国で行ってまいりました。現在は新型コロナウイルスの影響で船が出せないため、オンラインで世界に向けて証言会を行っています。核の非人道性ということが核兵器禁止条約の基礎の考え方にあり、広島や長崎の被爆者の証言を通じて、生の声として世界に伝えることに力を入れています。

▼市民連合の政策では核兵器禁止条約の批准について触れていますが、核兵器禁止条約の内容について教えてください。

世界では核兵器をなくすためにたくさんの取り組みがされており核兵器禁止条約もそのひとつですが、この条約では核兵器を全面的に否定しているという点で、これまでの協約や協定とは根本的に違います。これまでは例えば、アメリカとソ連、アメリカとロシアといった2カ国での条約、多国間では核不拡散条約や包括的核実験禁止条約がありましたが、核兵器を減らす・管理する・部分的に禁止するというものでした。これに対して核兵器禁止条約というのは、作ることも持つことも使うことも、いかなる場合でも全面的に禁止するものです。これには「国家自衛のため」という言い訳も通用しません。

これまでの条約ではパワーバランスで核兵器を管理する考え方でしたが、核兵器禁止条約では核兵器が使われたらどうなるかという非人道的な影響について着目し、人道的アプローチをとっています。国際社会では国際人道法という”戦闘手段は無制限ではない”というルールを第一次世界大戦・第二次世界大戦の反省として作り上げましたが、この考え方を適応して、核兵器というのは許されざる戦闘手段だという観点に立っていることも大きな特徴のひとつです。

また、核兵器禁止条約には、核を禁止するだけでない重要なポイントがあります。ひとつは、核兵器廃絶の道筋を定めていることです。今核兵器を持つ国が条約に入ってきた場合、どのような段取りで無くして検証するかというところを定めています。もうひとつは、核兵器の被害者に対する援助を行わなければならないと定めているところです。被害者というのは使用及び実験の被害者という定義されており、世界では核実験が2000回以上行われ、そのたびに被爆者が出ています。日本には曲がりなりにも被爆者援護法制というものがあり、被爆者の方は十分ではありませんが一定の援助を受けています。世界の核実験被害者の方は、かなり放置されてきており、そのような人たちに対してきちんと援助しなければならないという条項が含まれているところが画期的なところだと思っています。

▼現在、日本政府は核兵器禁止条約に対してどのような立場を取っているのでしょうか。

日本政府は核兵器禁止条約のできた2017年7月以降から、条約には入らないと言い続けています。説明の仕方は、”核保有国との対立を生むかもしれないので対話していかなければならない”とか”そのために保有国と非保有国との橋渡しをしていくんだ”とかいろいろな言い方をしてきました。しかし本質としては、日本はアメリカの核抑止力に依存する必要があり、核兵器禁止条約に入ってしまったらアメリカの核兵器や核抑止力を否定するので入れない、というのが本音だといえます。核兵器禁止条約では、開発・保有・使用のみならず、援助または奨励も禁止しています。日本では、核兵器の傘のもとにいて、アメリカの核兵器で国を守ってもらうという言い方があります。日本には非核三原則があり、開発も保有も使用もしませんが、いざとなったら核兵器を使ってくださいとアメリカに頼むわけですね。それは核兵器の使用を奨励することになります。場合によっては、日本のために核兵器を使ってくれるのであれば、それを援助することもあるかもしれません。日本はこのような奨励や援助をするから条約に入れないということです。ですが政府はこのような説明をしません。総理大臣や外務大臣が、”我が国は核兵器の援助をする予定ですので核兵器禁止条約には入れません”と言えば問題は明確化してよいのかと思いますが、そのように言うと国民を驚かせてしまうということを知っていてごまかしています。私たちが考えなければいけないことは、日本政府は核兵器の使用を援助するという姿勢をとっているのが良いことなのかということです。核の抑止力というのは、こちらが核を使用するぞと示すことで相手が思いとどまるという軍事的な理論です。つまり核抑止力に依存するということは、最終的に核兵器を使用を前提としていると言うことです。唯一の戦争被爆国として、広島や長崎であれだけのことが起きたと知っている国の私たちが、いざとなれば核兵器を使用する、そして奨励し援助というのが道義的に許されるのかということを、政府に対しても、私たち自身にも問いかけなければなりません。あわせて、そもそもアメリカが日本のために核兵器を使うことがあり得るのかということ、あるいは今現実的に起きつつある、核を使用する姿勢を見せたときに相手も対抗してきて核の脅し合いの競争が起きるということ、そしてその状況が続けば、偶発的になんらかの不測の事態で核が爆発するリスクも高まります。これらを踏まえて、核の抑止論は本当に機能するのか、安全神話なのではということを考えていただきたいと思います。

日本の野党の中でもこの点に関してはかなり幅があると思うんです。やはり核の抑止力が必要だという政党や政治家の方もいますし、核の抑止力について反対だという姿勢の政党や政治家の方もいると思います。わたしはやはり抑止力というものは大いなる幻想であり、しっかり議論していただく必要があると思います。

▼批准に向けた署名をしていらっしゃる方も読んでいらっしゃるかと思いますが、すぐに核廃絶するとできるものでは無いかもしれません。核廃絶をどのようなアプローチで進めていくべきなのでしょうか

国連でスピーチする川崎哲さん

やはり日本が核抑止力に依存した政策を転換していくということが、日本が核兵器禁止条約に入るための基本的な条件になります。それは一定の時間がかかるものだと思います。なぜかというと、核抑止力に依存するという政策が、ものすごく長い間日本政策の基本的な安保政策として取られてきていて、政策決定者の中では根深くありますので、それを転換していくために時間がかかるからです。現実的には、まず日本が核抑止力を脱却し核兵器禁止条約に加わる方向性を目指すことを明確にすることが第一目標になると思います。今の政府及び自民党は、それを無理だとしか言っていません。そこで政権を奪取しようとする勢力は、核兵器禁止条約の署名・批准を目指すのだという明確な対抗軸を立てて、核抑止力への依存からの低減と脱却の道筋を立てていくべきだと思います。日本政府が作った「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」という専門家委員会の議長レポートでも、核抑止力に依存するということは安全保障の危険な土台であるので、長期的な解決策を考えなければいけないと提言しています。これをふまえて昨年2月茂木外務大臣も国会答弁の中で、核兵器によらない安全保障の方が望ましいので検討を行わなければならないという答弁もしています。いつまでも核抑止力に依存していてはいけないんだ、変更が必要なんだということは、政府サイドからも少しずつ出てきていますから、まずはそれを目標に据え、北東アジアにおける非核と平和を作る枠組みの中で達成していく必要があると思います。

▼オブザーバー参加についてはどのようにお考えでしょうか。

北東アジアの地域枠組みの中で考えていくことに加えて、核兵器の全体的な役割の縮小ということも考えられます。一足飛びに核兵器の全面禁止でなかったとしても、例えば核の先制不使用を導入するということもできるわけですね。ところが、核の先制不使用なんかについてもこれまで日本政府は反対してきた、アメリカに対して核の先制不使用はしないでください、むしろ先制使用できるようにしておいてくださいと言ってきました。これはまさに核兵器禁止条約の言い方で言えば核兵器の使用の奨励をしてきました。段階を踏んでだとしても、まずは先制使用を止めて先制不使用にして、中国や北朝鮮も巻き込んだ軍縮枠組みにしていく、この中で日本は核抑止への依存から脱却していくというのが大きなストーリーになります。しかしこれをするには政治的な状況からしても時間がかかるという中で、それができないうちに今年の6月には核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開かれるわけですね。わたしはやはり、日本で核抑止力の議論がそのときまでに整理して解決されるとはとても思えませんが、少なくとも将来日本が核兵器禁止条約に加入する意思があるんだという方向性を打ち出しつつ、この締約国会議にオブザーバー参加するということを目指すべきだと思いますし、立憲野党はそれを求めていくべきだと思います。NATOの国々の中でもそう言った議論はたくさん行われていまして、ノルウェー、ドイツ、オランダ、アイスランド、スペイン、ベルギーというNATOの国でも、すぐに条約に法的に加入はできないが、まずはこの条約と関わり合いを持っていくという姿勢を取ろうといろんな議論が国会レベルで行われています。やはり唯一の戦争被爆国である日本が会議に参加をして議論していくということが、日本が核軍縮に真剣であると示すためにも重要です。そもそも日本政府は”橋渡し”をするんだという説明をいつもしてきましたから、いろんな場に参加をして対話をすることによって、はじめてそれはできるわけです。核兵器に限らずどんな問題でもそうですが、新しい何かが生まれるときに、そこにいなければ決してプレイヤーにはなれないわけですよ。日本が核軍縮に関してなんらかのプレイヤーになりたいと思うのであれば当然そこに参加してもらいたいと思います。ちなみに、政府与党の中で公明党は党として明確に長期的には核兵器禁止条約の署名・批准を目指すということと、短期的にはオブザーバー参加をするということを明確にしておりますから、少なくともこのラインは立憲野党が取りまとめをして自民党政府に対抗する政策として打ち出していくということが必要だろうと思います。

【川崎哲さんの著書】

「核兵器 禁止から廃絶へ」(岩波書店/2021年)

「新版 核兵器を禁止する」(岩波ブックレット/2018年)など多数