コラム

声に出してみる #インボイスまだ止められる/Nozomi Nobody(シンガーソングライター/文筆家)【2022.4】

「インボイス制度」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。

Nozomi Nobody
(シンガーソングライター/文筆家)

フリーランスや個人事業主等の小規模事業者、またそれらの事業者と取引のある企業にも大きな影響があると言われているこの制度は、2023年10月に開始が予定されている。

インボイスとは直訳すると請求書のことだが、ここでいうインボイスとは、税務署から発行された登録番号が記載された「適格請求書」のことを指す。インボイス制度が始まった後はこのインボイス=適格請求書が使われるようになるが、これを発行するためには①課税事業者であること②発行事業者として税務署に申請し登録することという条件がある。年収一千万円以下で現在免税事業者である事業者も、インボイスを発行するためには課税事業者にならなくてはいけない。これまで免除されていた消費税を納めることによる年間の負担額は、年収600万円のフリーランスで30~40万円と言われている。

さらに、現在の所得税の計算(確定申告)に加えて消費税も別途計算する必要が出てくるので単純に考えて倍以上の手間がかかることになり、税負担も事務作業負担も大きく事業者にのし掛かることになる。

現在課税事業者が消費税を納める際には、売り上げに掛かる消費税から仕入れにかかった消費税を引いた額を納めている。しかしインボイス制度が始まると「仕入税額控除」と呼ばれるこの控除を受けるためには、仕入れ先からもらう請求書はインボイスでなくてはならなくなる。つまり、取引相手がインボイス発行事業者でないと控除を受けられず、その消費税分を損することになってしまう。するとどういうことが起こると考えられるか。

インボイス発行事業者でない事業者は

①取引から排除される

②消費税分の値引きを迫られる

上記を免れたとしても、

③発注する側の事業者が税負担をすることになり、事業が圧迫される

いずれにしても、誰も得をしない制度というだけでなく、多くの事業者にとって死活問題であるということがよくわかる(制度に詳しい税理士の方にこの制度のメリットを訊いたところ「メリットはありません」とはっきり言われた)。

税や社会保険料の増加、物価の高騰など負担ばかりが増え続け賃金はちっとも上がらない中、長引くコロナ禍の打撃を受け多くの小規模事業者が厳しい状況に置かれているのは自明のことで、事実この二年で廃業した事業者はわたしの周りだけでも多くいる。そこにさらにこのインボイス制度が始まったら、様々な分野における多様な文化が失われるだろう。街の小さな飲食店、個人タクシー、文化芸術・エンターテイメント従事者、職人、ウーバーイーツの配達員、果てはシルバー人材センターで働く高齢者まで、数えきれないほどの事業者が影響を受け、そしてその余波は彼らの商品やサービスを受け取る一般消費者にも及ぶだろう。わたしたちはこの二年で多くの大切なものを失ってきて、その上まだ失わなくてはいけないのだろうか。しかも今度は国の制度によって。

制度開始まであと一年半。十分とは言えないが、まだ時間はある。現在様々な団体から反対の声が上がっており、市民団体「STOP!インボイス」が立ち上げたネット署名には4万を超える署名が集まっている。また、先日行われたTwitterデモには多くの声が寄せられ「#インボイスまだ止められる」のハッシュタグはトレンド入りとなった。3月末には立憲民主党も制度の廃止法案を提出している。

来る7月の参院選に向けより大きな声を上げ、インボイス制度の是非を争点化し、制度廃止を各党の公約に盛り込むことができればインボイス制度はまだ止めることができる。

最後に少しだけ自分のことも書いておきたい。わたしはミュージシャンで、この二年間、SaveOurSpaceやWeNeedCultureという文化芸術やそれに携わるひとたちがコロナ禍の生き延び、その後も生業を続けて行けるように、という活動に参加し、署名活動や国への働きかけ、様々な情報発信などを行ってきた。世の中のことや政治のことは以前から興味を持って自分なりにニュースを見たり調べたりはしてきたが、具体的に行動を起こしたのは初めてのことだった。戸惑いはあったしいまでもある。でも差し出された“決定事項”をただ黙って受け入れ続けることはもうしたくないし、できない。疑問を感じたら、それを声にしてみる。そうすることで変わること、変えられることがあることを学んできた。

わたしはインボイス制度に反対だ。零細事業者にさらなる納税を課し、事務負担を増やし、事業者同士の関係性を悪化させ、この国の文化の多様性はますます痩せ細り失われていくだろう。そうなる前に、声をあげたい。インボイス制度はまだ止められる。

【プロフィール】

Nozomi Nobody
シンガーソングライター/文筆家。自身の作品制作のほか、CM等での歌唱・制作も行う。
2019年にWebサイト『un/bared』を立ち上げ、トータルディレクションとエッセイの執筆を担当。
コロナ禍以降さまざまな社会運動に関わるようになり、トークイベントや配信番組にも出演するなど幅広く活動を行っている。

■参考リンク■

WeNeedCulture × STOP!インボイス【どうする!? どうなる!? インボイス制度】:https://youtu.be/cfrAlhJiEx0

STOP!インボイス Webサイト:https://stopinvoice.org

STOP!インボイス 署名:https://chng.it/X26ZYw8dnv

零細自営業者からメルカリ主婦まで負担増に、手取り収入が激減する『インボイス制度』とは?:https://www.jprime.jp/articles/-/23652