ひろば

「衆議院憲法審査会での「とりまとめ」(3月3日)に関する憲法研究者有志声明」/憲法ネット103 【2022.3.16】

2022年3月16日、憲法研究者と市民のネットワーク「憲法ネット103」は、82名の賛同者によって、「衆議院憲法審査会での「とりまとめ」(3月3日)に関する憲法研究者有志声明」を発表しましたのでご紹介させて頂きます。

1.今回のオンライン出席に関する憲法論議は極めて拙速で不十分なものである

2022年3月3日、衆議院憲法審査会では「憲法第56条第1項の『出席』の概念について(案)」(以下、「とりまとめ」と言う。)が多数決で採択された。だが、憲法審査会での議論は極めて拙速で不十分なものであった。

今回の憲法審査会の進め方をめぐっては、異例な対応が続いて、野党から問題視する声も上がった。①新年度当初予算案を予算委員会で審議中は憲法審査会を開催しないのが近年の慣例だったが、審議中の2月10日から今回の審査会は開催された。しかも、②そのなかで、わずか1カ月足らずの間に、自由討議の中からオンライン国会の憲法上の論点を抽出し、集中討議-参考人陳述・質疑-総括的討議とたたみかけ、議論を深めることもなく、会長から報告案として提示された「とりまとめ案」を多数決で採択するという今回の手順は、拙速かつ強引であり、これまでの審議のあり方からは大きく逸脱するものであった。

私たち憲法研究者は、これほど手順無視で拙速・不十分な議論で憲法解釈の「とりまとめ」が出されること自体、「国の最高法規」である「憲法」が軽く扱われていることを示すものと憂慮する。憲法56条1項の「出席」に係る憲法解釈についても、「国権の最高機関」(憲法41条)、「国民代表」(憲法43条)、「立憲主義」の視点からも丁寧かつ慎重な議論を重ねていくべきであった。すでにオンライン議会(委員会も含む)が実施されている自治体や国も存在することから、こうした自治体や国の実際の運用はどうか、その長所・短所等を踏まえた上での綿密な議論も必要であった。私たち憲法研究者はこうした不十分な議論のとりまとめに強く抗議するとともに、今回の憲法審査会が「悪しき先例」として決して繰り返されることのないように強く要望する。

2.今回の憲法審査会の開催は、そもそも必要ないものであり、不適切なものであった

そもそも、いまコロナ禍ではあっても、国会を開くことに支障が起こっているわけでもないのだから、憲法改正の有無等を吟味する憲法審査会を開催する必要は全くない。ましてや山積するコロナ禍に対応すべき重要問題を審議しなければならない筈の予算委員会開催中に、あたかも総力を割くように憲法審査会を開催することは一層問題である。 このように論じることに対しては、憲法審査会の中では、憲法改正(論議)をしないことは主権者国民の権利を侵害するとか、「憲法制定権力」の侵害に当たるといった主張もなされている。しかし現在、主権者である国民の多くが憲法改正を求めているわけではない。憲法を改正しなければ権利・自由が保障されない状況が発生しているわけでもない。したがって「憲法制定権力の侵害」等の主張には全く根拠がない。

今の日本で求められているのは、コロナ禍での市民の「生存権」(憲法25条)、「個人の尊厳」「幸福追求権」(憲法13条)、「教育を受ける権利」(憲法26条)、「営業の自由」(憲法22条・29条)等の権利・自由の実現を可能にする政治である。政治家たちが全力を尽くすべきはそうしたコロナ対策である。

コロナ禍での「国会機能の維持」と「緊急事態への対応」という主張もなされているが、そうであれば何故、憲法53条に基づき臨時国会召集の要求があったにもかかわらず、2020年に安倍内閣、2021年に菅内閣は憲法規定を無視して数か月も国会を召集しなかったのか。こうした明確な憲法違反の内閣の行為について憲法審査会で何ら問題とすることの無かったことと対比すると、今回の衆議院憲法審査会の対応に対しては、私たち憲法研究者は極めて強い違和感を覚えるものである。

以上

【賛同者】 2022年3月16日12時段階 82名

愛敬浩二(早稲田大学)

浅野宜之(関西大学)

麻生多聞(鳴門教育大学)

足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授)

飯島滋明(名古屋学院大学)

井口秀作(愛媛大学)

石川多加子(金沢大学)

石塚 迅(山梨大学)

石村 修(専修大学名誉教授)

井田洋子(長崎大学)

稲 正樹(元国際基督教大学教員)

植野妙実子(中央大学名誉教授)

植松健一(立命館大学)

浦田賢治(早稲田大学名誉教授)

榎澤幸広(名古屋学院大学)

江原勝行(早稲田大学)

大内憲昭(関東学院大学)

大野友也(鹿児島大学)

岡田健一郎(高知大学)

奥田喜道(奈良教育大学)

小栗 実(鹿児島大学名誉教授)

奥野恒久(龍谷大学)

金澤 孝(早稲田大学)

上脇博之(神戸学院大学)

河上暁弘(広島市立大学)

川畑博昭(愛知県立大学)

菊地 洋(岩手大学)

木下智史(関西大学)

君島東彦(立命館大学)

清末愛砂(室蘭工業大学)

倉田原志(立命館大学)

倉持孝司(南山大学)

小林 武(沖縄大学)

小林直樹(姫路獨協大学)

小松 浩(立命館大学)

近藤 敦(名城大学)

近藤 真(岐阜大学名誉教授)

斎藤一久(名古屋大学)

斉藤小百合(恵泉女学園大学)

笹沼弘志(静岡大学)

澤野義一(大阪経済法科大学)

清水雅彦(日本体育大学)

鈴木眞澄(龍谷大学名誉教授)

菅原 真(南山大学)

髙佐智美(青山学院大学)

高橋利安(広島修道大学名誉教授)

高良沙哉(沖縄大学)

竹内俊子(広島修道大学名誉教授)

竹森正孝(元岐阜大学教員)

田島泰彦(元上智大学教授)

多田一路(立命館大学)

建石真公子(法政大学)

常岡せつ子(フェリス女学院大学名誉教授)

内藤光博(専修大学)

中川 律(埼玉大学)

中里見博(大阪電気通信大学)

中島茂樹(立命館大学名誉教授)

長峯信彦(愛知大学)

中村安菜(日本女子体育大学)

永山茂樹(東海大学)

成澤孝人(信州大学)

成嶋 隆(新潟大学名誉教授)

二瓶由美子(元桜の聖母短期大学教員)

丹羽 徹(龍谷大学)

根森 健(新潟大学・埼玉大学名誉教授)

波多江悟史(愛知学院大学)

濵口晶子(龍谷大学)

福岡英明(國學院大學)

藤井正希(群馬大学)

藤野美都子(福島県立医科大学)

本庄未佳(岩手大学)

前原清隆(元日本福祉大学教員)

松原幸恵(山口大学)

水島朝穂(早稲田大学)

宮井清暢(富山大学)

三宅裕一郎(日本福祉大学)

宮地 基(明治学院大学)

村田尚紀(関西大学)

本 秀紀(名古屋大学)

山内敏弘(一橋大学名誉教授)

脇田吉隆(神戸学院大学)

和田 進(神戸大学名誉教授)