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~強行採決の暴挙を想起させる~ “弁論権”の剥奪と“裁判を受ける権利”の蹂躙は許さない/安保法制「女たちの違憲訴訟」 原告団弁護団一同 【2022.3】

★1月28日の法廷で起きたこと

2022年1月28日、東京地裁の102号法廷で「女たちの違憲訴訟」の第16回口頭弁論期日が開かれていました。法廷はきわめて平穏で、原告代理人は、粛々と提出した準備書面の要旨を意見陳述しました。そのあと裁判官は、提出書面の一部を確認したのですが、原告が申請している証拠の採否も決定しないまま、また原告代理人が今後の立証について意見を述べようとするのを無視して、突如として「脱兎のごとく」法廷に背を向けて裁判官席から「退場」するという前代未聞の事態が起こりました。残された原告と代理人、傍聴人は呆気にとられ、何がおきたのか書記官に事情を聴くなどしましたが、原告らが自主的に退廷した法廷の外には警察官を含む数十名の法廷警備体制が組まれていました。

その後裁判所が作成した「口頭弁論調書」には、裁判長はこの期日で「弁論終結」としたこと、そして判決言い渡し期日を「3月25日」と告知したと記載されていました。しかし私たちは、このような告知を受けていません。裁判官は告知したというのかもしれませんが、すくなくとも法廷には周知されていません。このような3月25日の判決言い渡し期日を認めることはできません。

私たちは、「非暴力」により暴力や武力行使に抗うことを信条に行動してきました。この姿勢は法廷でも一貫しており、対話による手続きを求めてきましたが、裁判所が警察官まで動員されて法廷秩序を乱す集団のように私たちを扱ったことは、とても納得できません。しかも裁判所は、なにかのブログに法廷内を撮影した映像がアップされていたとし、3月25日の判決言い渡し期日には、法廷に入る原告・傍聴者に対する「手荷物検査」を実施すると伝えてきました。

「法秩序」を乱したのは原告・代理人ではありません。裁判所の訴訟指揮こそ問題です。それを、まるで原告・代理人が「違法集団」であるかのように警察官まで配備し、判決日には手荷物検査まで実施するというのでは、何が「法の支配」なのか、人権の守り手であるべき裁判官の役割と使命からみると、重大な問題です。

★「女たちの違憲訴訟」とは何か

私たちは、憲法前文でいうところの、恐怖と欠乏からの自由、対等な人間相互の承認と信頼を基盤とする「民衆の平和」の担い手であり主体です。平和は、人権の核心にある自由と平等なくしてありえません。そして戦争は、人間を道具とする差別と暴力の究極の形です。憲法9条は、この「民衆の平和」によって国家が武力行使によって紛争を解決することを禁止しましたが、安倍政権(当時)は、2014年、この憲法の鉄則を犯しました。差別と暴力に抗って生きてきた女性たちが、その体験からこの安保法制が女性の権利を侵害するとして損害賠償請求訴訟を提起したのが、2016年8月15日でした。

2014年7月の解釈改憲閣議決定から翌年9月19日の安全保障法制強行採決に至る過程と強行採決は、公権力行使の濫用によって戦争を放棄した平和憲法を犯し、その結果、①女性たちが積み重ねてきた平和への努力を無にし、②その努力によって形成してきた女性に対する暴力(戦時・平時の軍隊による性暴力を中心とする)の根絶をめざす平和の価値と諸国民との間の信義を否定し、③国連安保理決議に基づいて求められた安全保障のジェンダー主流化に向けた原告らの取り組みと成果を無化し、④米軍との有機的一体化のもとに日本を戦場とする危険を余儀なくさせ、⑤軍事化を進行させることによって女性たちが根絶を求めてきた女性に対する差別と貧困、暴力を増長させて現実の苦悩を強いるなどの損害を加えました。私たちは、これらの具体的な権利利益の侵害を根拠に、国に対し損害賠償を求めています。

全国各地で集団的自衛権行使など日本の武力行使の危険を質的かつ飛躍的に高める安全保障法制に対し、異議を唱えて違憲訴訟が取り組まれています。私たちの訴訟は、「ジェンダーと平和」をテーマに、安全保障法制の違憲性・違法性と民衆の被害を訴えているところに特徴があります。

★解釈改憲にかかわる議事録等情報開示を求めたこ

安保法制強行採決から5年を経過して、堰を切ったように、当時「集団的自衛権行使」を可能にする解釈改憲をリードした官僚や自衛隊幕僚など制服組幹部たちによって、「国防」をめぐる論議が出版・報道されるなど、日本の軍事化と戦場化に向けた安全保障政策が公然と議論されるようになりました。米軍と一体化した自衛隊の配備や共同訓練(これも武力による威嚇)が日本を含む東アジアの戦場化を想定しながら進められています。こうした東アジアの有事を想定した動きは国内の有事体制とともに、「安保法制懇」当時から検討されてきたことがうかがえます。しかし、この法制のリスクを隠すため、安保法制懇議事録は国会にも明らかにされることはありませんでした。また、内閣法制局が解釈改憲に深くかかわるようになったことは公知のことですが、解釈の変更に向けた「意見事務」処理の歴史的記録は破棄されています。

私たちは、ちょうどこの時期、政府がすすめていた、安全保障のジェンダー主流化を求める安保理決議1325号の「国別行動計画」策定に、市民社会の側から直接・間接にかかわってきました。そして、平和に欠かせない課題として、日本軍「慰安婦」制度による被害救済・責任の明確化、軍隊による性暴力や反日攻撃などヘイトスピーチによる人権侵害の根絶を盛り込むよう働きかけてきました。それは「民衆の平和」を求め、そうした観点から何が本当の安全保障であるのかを問うものでした。民衆の平和の権利が国家権力の発動を規制する憲法9条の解釈をめぐる論議のなかでどのように扱われたのかは、この訴訟における最大の関心事でもあります。とくに、当時の安倍総理が強行採決後に開催された国連総会に出席して「国別行動計画」の策定を報告したとき、市民社会がかろうじて盛り込ませたこれらの課題に触れた部分を削除していました。そうした経過からみても、これまで活動してきた私たちには、安全保障とは何かをめぐってどんな議論が行われたのか知る権利があるはずです。そのため、私たちは、これまで秘密にされていた安保法制懇議事録を提出するよう「文書提出命令申立」を行い、あわせて横畠長官(当時)の尋問を申請しました。

★裁判所は何を守ろうとしたのか

この立証は、解釈改憲から安保法制を強行採決する過程で私たちの権利が侵害されたことを明らかにするうえで、とても重要な証拠でした。のみならず、それは憲法の平和主義と民主主義のあり方を問うものでもあります。

安保法制懇の議事録は、私たちが背負わされるリスクの想定とその隠蔽を明らかにするために不可欠なもので、文書提出命令申立は当然認められるべきです。また憲法解釈の変更と本件法制の射程を検討してきた内閣法制局における意見事務の経過は、安保理決議で求められた安全保障におけるジェンダー主流化とそのために活動を重ねてきた原告らの排除の過程を明らかにするものです。その歴史的記録が破棄されている以上、横畠元長官尋問は不可欠であるはずです。私たちはそのことを主張しましたが、裁判所は第15回口頭弁論期日で、文書提出命令も尋問も必要はないとして認めませんでした。裁判官忌避申立てを経て再開された第16回口頭弁論期日では、その必要性を明らかにする主張と立証をさらに積み上げて、裁判所がこの申立を採用するよう求めることにしました。そのために、わざわざ事前に、きちんと原告らの話を聞いてもらいたい、裁判所がその必要がないというなら理解を深めるために意見交換したいと要請していました。

ところが、裁判官は、事前の要請にもかかわらず、原告らが求めた立証について無言のまま、意見を述べようとすることも無視して、背を向け退席したのです。私たちが提出した新たな人証申請を弁論期日に提出扱いにすることもなく、弁論は終結させられました。そうした「訴訟指揮」に備えて裁判所の警備要員に加え警察官まで動員していたとは驚きの事態でした。私たちが「不逞の輩」のような扱いをされるいわれはまったくありません。

★判決期日(3月25日)は認めな

私たちは、法廷で告知を受けていない3月25日の判決言い渡し期日を認めては、司法に貫かれるべき「法の支配」を蔑ろにすることに自ら手を貸すことになると考え、判決期日に法廷に出頭することを拒否することを申し合わせています。

裁判所からは、3月25日の法廷にTVカメラを導入する、手荷物検査を実施する、そして判決要旨を作成して司法記者クラブに交付する(原告には交付しない)と知らされていますが、東京地裁でこれまで争われた安保法制違憲訴訟でこのような扱いをされることはありませんでした。

裁判所が何を考えているかは明らかです。私たちを「不逞の輩」扱いしたことを正当化し、私たちが賠償請求など認められる余地もないのに訴訟を提起したうえ、議事録の開示や解釈改憲に関与した法制局長官まで尋問申請するなどとても認められないのだと宣言したいのでしょう。しかし、司法が多数与党の立憲主義違反、憲法秩序を侵害する横暴を認めるなどあってはならないことです。閣議決定や法制の違憲性、威力を借りた強行採決の違法性を明らかにしようとする私たちの主張立証を封じることは、主権者として「裁判を受ける権利」を侵害する行為です。こんなことは許されることではありません。これを「権力の濫用」と言わずして何なのでしょうか。

★抗議署名と3月25日抗議・報告集会への参加を訴えます

私たちは、いま、裁判所に対する抗議書面の取り組みをしています。署名に協力をお願いします。また、裁判所が判決を言い渡すとした3月25日は、法廷への出席を拒否し、抗議・報告集会を開催します。時間と場所は下記のとおりです。ご参加ください。

★抗議・報告集会

〇日時:3月25日(金)16時30分~*16時から1階ロビーで通行証配布

〇場所:参議院議員会館 B109号室

★抗議署名

〇ご賛同下さる方は下記の申込フォームより、お名前、メールアドレスをご記入の上送信してください。

https://forms.gle/NwiJGYx7uoJEfBVk6

〇第1次集約 2022年3月20日