コラム

市民連合課題別座談会「カーボンニュートラルと脱原発で未来を拓く」【2021.10】

市民連合は立憲野党の政策議論を深め、共闘体制を強化するために、重要課題の一つである「カーボンニュートラルと脱原発」について、立憲野党議員と専門家・活動家による座談会を行いました。

 

日時 10月12日午後7時(ZOOMで実施)


参加者


山崎誠(立憲民主党衆議院議員・党環境エネルギー調査会事務局長)
笠井亮(日本共産党衆議院議員・党原発・気候変動・エネルギー問題対策委員会責任者)
福島みずほ(社会民主党参議院議員・党首)
明日香壽川(未来のためのエネルギー転換研究グループ・東北大学教授)
松久保肇(原子力資料情報室事務局長)
コーディネータ:佐々木寛(市民連合@新潟、新潟国際情報大学教授)


<座談会YouTube映像>

 

<座談会要約>

佐々木 コーディネーターを務めさせていただきます、市民連合@新潟の佐々木です。エネルギー政策は言うまでもなく、経済やライフスタイルあるいは安全保障も含めて社会の在り方そのものを決定づける最も重要なテーマです。岸田新首相の所信表明演説では、エネルギー問題は新しい資本主義という中に含められ、一言、クリーンエネルギー戦略という言葉だけが言われていて、中身は全く分からないままですし、あいかわらず業界の利権政治というか、原発から抜けられない政権の限界をみることができます。もう一つの道を、政策レベルでしっかり考えようというのが今日の企画の趣旨です。気候危機の現実とグリーンニューディールの可能性について、明日香さんよろしくお願いします。


明日香 まず強調したいのは、日本の排出削減数値目標を政府は2030年に2013年比で46%としていますが、これは90年比だと40%で、他の先進国に比べるとかなり見劣りするということです。国際社会から見ると全然野心的ではありません。
 もう一つ、パリ協定にある産業革命以降の温度上昇を1.5度に抑えるという目標を67%の確率で実現また達成する場合、日本などの先進国はまず2030年までに大きく減らす必要があります。そうしないと1.5度目標の達成は不可能です。
 温暖化対策は、基本的には再エネと省エネの導入です。再エネの導入量に関して、日本はこの30年で他の国にどんどん抜かされています。また、IEAは2050年に再エネが9割を占めても、電力価格は上がらないと言っています。IEAは、先進国は2030年に石炭火力をゼロにする必要があるとしていますが、これは日本に対するメッセージと言っても過言ではありません。
 温暖化対策には原発がどうしても必要だという人がいますが、それは間違っています。世界では多くの国が、再エネと省エネによって、脱原発と脱温暖化の両方を目指しています。それは原発のコストやリスクを考えれば、その方が明らかに経済合理的だからです。

日本では、再エネに比べて省エネの議論が少ないことも問題です。産業界などでの省エネポテンシャルはたくさんありますし、これらは光熱費削減などで儲かる投資です。

最後にこういうエネルギー転換の話をすると、必ず雇用喪失の話になります。エネルギー転換に伴う雇用喪失は、日本だけの問題ではなくて、どの国も悩んでいます。しかし、エネルギー転換を実現した方が全体的には雇用は増えるというのがIEAを含む多くの研究者のコンセンサスです。また、日本は米国、中国、ロシア、カナダ、オーストラリアなどに比べれば化石燃料産業がほぼゼロなので、相対的には非常に恵まれています。

雇用を、どうスムーズに転換していくはまさに政治の問題であり、政治家のみなさんには、ぜひ具体的なアクションをとって欲しいです。それが日本の経済再生にもつながると考えます。

佐々木 今度は原発をどうなくしていくか、具体的なお話を頂こうと思います。松久保肇さんに、ご説明頂きます。


松久保 原発は稼働の是非にかかわらず、維持費が必要です。電力会社の有価証券報告書を分析すると、東電福島第一原発事故後の10年間、原発で全く発電しなかった電力会社の原発維持費は11.6兆円に上ります。全く何も生み出さなかったものに対して11.6兆円です。再稼働したものや安全対策費を含めれば20兆円を超えます。当然ながらこうしたコストは事業者が電気料金に転嫁しています。

脱炭素のためには、当然、火力発電所の新設ではなく再エネへの投資が必要になってきます。ですが、いつ再稼働するかわからない原発が存在することによって、再エネ投資が抑制される可能性はあります。例えば九州電力は、原発が再稼働することによって再生可能エネルギーの出力を抑制しなければいけないという状況があります。

年間需要でみた場合、原子力が無くても大体満たすことができます。原発が動いていなくても、電力供給問題なかったわけです。基本的には脱原発は今でも実現可能です。そうなると問題になってくるのは、廃止にした後、地域社会を再構成して行くかという話になります。

 原発を廃止するのにだいたい30年ぐらいかかります。この長期に渡る廃止措置、そして廃止後の原発のない地域社会をどのように作っていくか。住民、電力会社、自治体などが共同で作り上げていく必要があります。

現状を振り返ると、電力会社は、ここで原発やめるなんて言えないわけです。20兆円も投じてきたという経営責任に直結してしまうからです。一方原発には、動いていなくても巨額の維持費がかかっていて、動かない原発を抱えた電力会社の重荷となっています。さらに原発はどんどん老朽化しており、いずれ、廃炉になっていきます。これをカバーするためには再エネ普及が必要なのですが、原発が存在するがために、再エネの導入拡大の足を引っ張っているというところだと言えます。

事故から10年を無駄にして、巨額の資金を投じてしまいました。今、脱原発するということを政治決定して、話を始めないと間に合わないという状況です。

 

佐々木 お二人のお話を受けて、今回の選挙で更に共闘を深めている立憲野党の皆さんに各党のエネルギー政策についてお話しいただきたいと思います。いずれも各党のエネルギーの中心的な方でいらっしゃいます。まず、立憲民主党の山崎誠さんからお話しいただきたいと思います。

山崎 立憲民主党が衆議院議員選挙に向けてエネルギー政策を提示したところなので、その話をしたいと思います。立憲野党はみな原発に依存しない社会を、早く作りたいということです。カーボンニュートラルも原発に依存しない形で実現をしなければいけないというのが一番肝になるところだと思います。原発の新増設はしない。それから自然エネルギーをどういう風に入れるかですが、2030年には再エネを電力の構成で50%。2050年には再エネ100%で、エネルギー全体をまかなうという目標を掲げています。2030年にこの数字を達成し、省エネをきちんとやることで、温室効果ガスを、2013年比55%以上削減ということができます。エネルギー活用効率の最大化をめざし省エネを深掘りする、ソーラーシェアリングや、バイオマス熱利用、すなわち森林とバイオマス組み合わせた並熱利用などで、一次産業をエネルギーで支えていく、そんな事業を提案しています。最終的には再エネ100%という絵を書いています。省エネ一つ一つの分野ごとに細かく精査をしてこの数字を出しています。再エネもソーラーシェアリングだとか屋根置きなど、どのくらいの屋根に置くんだっていうのも全部計算して、数字を出していますので、かなり精査をした数字ということです。

 

佐々木 続きまして日本共産党の気候変動エネルギー問題の対策委員会の責任者、笠井亮さんに共産党のエネルギー政策、ご説明頂きたいと思います。


笠井 カーボンニュートラルと脱原発で未来を拓くという点では、お話も伺って改めてやはり、速やかな政治の決断が、求められているということを痛感したところです。気候危機を打開すると「2030戦略」を9月1日に発表をしました。一つはですね、やはりあの科学的知見に政治が本当に正面から向き合うと、政治が何をすべきか、ということを、やはりよくよく明確にする必要があるなという点です。人間の影響が温暖化に影響を与えているのは疑いの余地なしということです。このままでは破局に向かってしまう、しかし今しっかり取り組めば、抑えられるというとこに来ているという言うところが肝心です。二つ目には、2030年度までに、どこまで減らすかってことですけれども、50%から最大60%としました。私たちは2010年度比ということでIPCC に合わせて出しました。これは2013年度比ということで言うと最大63%ということで、野心的目標を掲げるべきだということです。やはり再エネと省エネを組み合わせて実行する。

自公政権、目先だけということで、四つ問題、端的に言いました。一つは2030年目標が低すぎるということです。世界の平均でも45%で、先進国のいっぱい出しているところは欧米で50から60%とか言っているわけですから、その点がある。二つ目に石炭火力にかなり依存し続けるということで、今度出るエネルギー基本計画の案でも、26%を19%にするってことですが、まだ依存するのかということです。欧米はもう撤退という方向です。三つ目は、原発の問題ですが、稼働を推進するというのが政府の対応です。27基すべてで稼働するのが前提になっていて、最悪の環境破壊ということになり、世界を放射能汚染の危険にさらすことになります。4点目はやっぱり実現の目処がない、あと9年どうするかと言うと、いま話した技術に頼ろうとしている。地下貯留にしても水素にしてもアンモニアにしてもそれに頼るという問題があるんのではないかという指摘をさせてもらいました。最後ですが、この目標に向かっていくのが、雇用や暮らしを良くするという持続的な成長の道です。


佐々木 ありがとうございました。続きまして、社会民主党党首の福島みずほさんにお話し頂きたいと思います。

福島 社民党政策の公約ですが、2050年までに自然エネルギーへの完全転換や温室効果ガス排出ゼロを目指します。グリーンリカバリーと、脱原発。原発ゼロ基本法案を成立させて、再稼働を許さないというのを掲げています。脱炭素、脱原発、原発再稼働もさせないっていうことで、この二つをはっきり言いたいと思います。日本はもうご存知、大型火力発電所をこれから建設するところもあり、火力発電所に対する投資もありますし、輸出もあります。それを何とか止めるっていうことです。

国連の人権理事会がクリーンで健康で持続可能な社会は人権である、という決議を出すのに賛成した国がほとんどで、反対ゼロですが、棄権をした国が4つあってロシア、中国、日本、インドです。クリーンで健康で持続可能な社会は人権であるというのはしっかり打ち出していく必要があると思っています。岸田内閣ははっきり原発推進というので、凄まじく危機感を感じました。かつてドイツ社民党と緑の党が連立政権組んで、脱原発というのを掲げこの間の2011年3月11日以降メルケル首相の下でも脱原発を改めて確認して、進んでいます。日本に欠けているのが、なんとしてもその政治の意思決定です。そこで本当に頑張っていきたいと思っています。


佐々木 明日香さんと松久保さん、それぞれのお話を聞いて、いかがでしょうか。気候変動、エネルギー問題は、安全保障問題でもありますね。


明日香 気候変動問題が、今安全の問題なり安全保障の問題だという話がありましたが、この点は本当にもっと強調してほしいです。アメリカでもヨーロッパでも難民問題や自国での山火事、干ばつ、洪水で大変だという危機感があるから、気候変動は安全保障問題という認識があります。日本では、このような認識が圧倒的に欠落しています。あと、重要なのはエネルギーや気候変動問題の政治的な争点化です。政府は争点化したくないのでしょうが、だからこそ野党が、自分達は大きな争点と考えると主張していくしかありません。言わないと争点には絶対にならないので、ぜひぜひ強く言い続けていただければと思います。

 

佐々木 松久保さんいかがでしょうか


松久保 総裁選で核燃料サイクルについて、珍しく自民党で議論があったのですね。岸田さんが非常に間違った、核燃料サイクルを止めると、プルトニウムが増える、国際問題になるというような、見解を示されました。

核燃料サイクルは原発の問題でもあるのですが、核兵器の問題でもあるのです。

 今アメリカのバイデン政権の中では核兵器の役割について議論が行われています。そこでは、核兵器の先制使用をやめましょう、という議論があります。オバマ政権でも議論されましたが、当時の安倍内閣は、この方針に反対しました。日本は核兵器廃絶と言いながら、核兵器の役割を減らそうということに反対しているのです。

 今回、岸田内閣でも、おそらく反対するという姿勢を、示されているのです。アメリカは核の傘が弱まったら日本が核武装するかもしれないから、核の傘を弱められないと思っています。その背景にはプルトニウムを作り出す、日本の原子力使用済み燃料再処理計画の存在があるのです。

所得の低い層にとっては、光熱費がちょっと上がると非常に大きな影響があります。家庭の断熱とかソーラーの補助金を受けるには、低所得者層にとってなかなか難しいですし、公共住宅に住んでいる方々には、全く関係ないものです。欧米を見てみると、公共住宅の断熱性能の改修とか、あとは低所得者層向けのソーラーパネルの設置の補助とかバリエーションが有るわけです。是非その辺りにも目配りをした、グリーンリカバリーを考えていただければいいなと思います。

 

佐々木 最後に各政党の皆さんから有権者に向けてメッセージをいただければと思います。

山崎 とにかくエネルギー政策を選挙の争点に我々は据えたいのです。これはただ単にエネルギーの話にとどまるものではなく、社会の大きな構造変革なのです。原発のような集権的な大企業中心のシステムから再エネは本当にコミュニティーパワーで、それぞれの地域に発電設備があってそこで地産地消的なエネルギーで地域の経済が回っていきます。新しい社会変革であり、新しい経済を作るという意味で、とっても広がりのある取り組みなのだということを、ぜひお伝えをしたいなと思っています。グリーンリカバリーと言うコロナからの脱却の話もあるし、長い目で見て環境をどういう風に守って、持続可能で環境調和の社会を作っていくか、地域が自立して分散ネットワーク型の新しい社会を作るという提案をぜひ訴えていきたいです。


佐々木 山崎さん、ありがとうございました。続きまして笠井議員、よろしくお願いします

笠井 今の政権がこの問題を争点化したくないというのは、まさにその通りだと思います。岸田総理の所信表明演説の中では気候危機、気候変動問題一言も触れなかったわけですよね。本当に我々が頑張らなければいけないということを痛感しています。それでまた脱炭素、原発ゼロ、省エネ、再エネの道に進むには、やはり政治を根本から変えなきゃいけないよ、ということ多いに訴えてきたいなと思っています。目先の儲けさえ増やせればいいと、後は野となれ山となれって言う、そういう新自由主義との決別が必要です。やはり貧困と格差なくして暮らしを良くすることと一体のものです。希望ある社会、明日を拓くっていうことで、若い世代先頭に、思想信条の違いを超えて、力合わせたいなっていうことをすごく感じます。2018年3月に原発ゼロ基本法案を、6月には再エネ推進法案を山崎さん達とも一緒に共同提出もしました。それが出来たのも、市民の皆さんの運動が背中を押していただいた、だからこそだと思うのです。この間の6年間の努力があってみんなで力合わせれば政権を変え、脱炭素、原発ゼロと省エネ再エネ可能だということで、大いに訴えて、頑張っていきたいと思います。


佐々木 福島さんお願いします。

福島 今度の総選挙本当に大事な選挙です。脱炭素、脱原発を本当に手にすることができるのか。自民党政権はコロナ対策でも人の命をなんとも思っていないのです。人の命を守ることが政治なのだという自覚がないのです。さっきも言いましたように原発事故から10年経って、いま向こう側は原発推進に大きくもっと明確に舵を切ろうとしている時に、私たちが大きく力を合わせて大きな声を上げて脱原発だっていうことを、また改めてたくさんの市民の人達に言っていきたいと思います。このように原発推進とか原発動かすとか、エネルギーミックスなんて言っていると、もう一度近いうちに日本がまた原発事故を起こしてしまうんじゃないか、原発事故が起きて、すさまじい被害が起きるのではないかということを、また本当に心配しています。事故を起こさなくても恒久的に色んな放射性物質をやっぱり海に出しているわけですから、その両方をやっぱり強く訴えて、力を合わせて、市民連合と4野党で作った政策協定書、あの地域分散型経済とか全部入っていますので、そこに向かって頑張りたいと思います。やはり社民党も防災減災に向けたインフラの整備とかですね、そういうことも、身近な問題として有権者の皆さんに訴えて、脱原発、脱炭素、省エネ再エネ、という事を浸透して選挙の大きな争点にして、脱原発、脱炭素をとにかく実現していきましょう。

佐々木 福島さん、ありがとうございました。本日は、CO2削減目標は日本まだまだ低い、再エネ導入してもコストは上がらない、原子力はなくても年間需要ほぼ満たすなど、エネルギー政策に関して、まずは「素朴な誤解」を正すことができました。またどの政党のみなさんも数値目標や政策の方向性などはほぼ同じであり、政権交代後の、非常に根拠があるエネルギー転換についてお話されたと思います。今日は短い時間でしたけれども充実したいろんな議論ができたと思います。ありがとうございました。

 

<資料>

気候危機と「グリーンニューデール」の可能性

脱原発のロードマップ(資料では年間需要の差分は訂正されています)

【りっけんチャンネル】「楽しみながら自然エネルギー社会の実現に向かいたい」再生可能エネルギーへのシフトについて意見交換 – 立憲民主党 (cdp-japan.jp)

気候危機を打開する日本共産党の2030戦略│2021総選挙政策│日本共産党の政策│日本共産党中央委員会 (jcp.or.jp)

2021年 重点政策 – 社民党 SDP Japan