立憲野党・政党インタビュー(第3回)社会民主党・大椿ゆうこ副党首
インタビュアー/菱山南帆子さん(市民連合)
9月22日/参院議員会館
菱山 本日はよろしくお願いします。まず初めに先日、大椿さんも参加されていた9月8日の市民連合4党の共通政策合意と、市民と野党の共闘について社民党としての思いをお聞かせください。
大椿 9月8日に私もその場に同席しました。ようやく市民の皆様の期待に応えて野党共闘の第一歩が踏み出せ、衆議院選挙に一緒に本格的な活動ができるようになったという思いです。スタートラインに立てましたね。
菱山 そうですね。この6年間の積み重ねのスタートラインですね。そんな中で、大椿さんが最も注目し、実現したい政策はどういったものでしょうか。
大椿 合意した共通政策は6項目ですが、中でも、「格差と貧困を是正する」という項目は、私自身が最も実現したい項目です。私自身、非正規労働者として働き雇い止め解雇された経験があり、それ以来、労働問題は私の活動の主軸になっています。コロナ禍で11万人以上の人が解雇・雇い止めにあったという事実は他人事とは思えません。
非正規労働の問題がこのコロナ禍においてより顕在化しました。この問題をこれ以上先送りできないということを野党で確認し合えたのは、政策として大きな意味があると思います。
また「行政の透明化」という項目も重要です。例えば森友学園門題。あの件は大阪で起きました。私たちが親しくしている市議会議員や市民運動をしている方たちが問題に気づき、全国的に取り上げられ、国会で議論されるまでに至りました。しかし、なぜ近畿財務局の赤木俊夫さんは公文書の改ざんを強いられたのか、なぜ自ら命を絶つまで追い込まれたのか、その背景は明らかにされていません。この事件は、政治の私物化を行って来た安倍・菅政権を象徴する事件の一つです。
この件について野党一丸となって切り込むという共通政策を掲げられたというのは、非常に意味があります。ここに、今の政治を本気で変えなければいけないという覚悟が現れています。
菱山 森友学園問題から始まる行政の不透明化への不信感の発端となったのは大椿さんの地元・大阪ですものね。自民党の総裁選においても、立候補している中のどなたも森友学園問題を再調査しないと言っていましたね。
大椿 さらに加計学園は、私の地元の岡山で起きた事件。政治を私物化し自分の友人を優遇する、また国会においては数の力で悪法を強行採決、答弁はのらりくらりと言い逃れをする今の政治は問題です。子ども達にこういった不正がまかり通る政治を見せ続けてはいけない。次世代の子どもたちにまともな政治を引き継いでいく上で、ここで一旦今の政治を終わらせる必要があると思っています。
菱山 なんだか、ズルして得をする世の中になってしまうというか、国のトップが腐敗してしまっていると、全体が腐敗化していきますよね。
大椿 公文書改ざんなど、正直ここまでのことをするとは国民も思っていなかったと思います。都合が悪くなれば公文書を改ざんしたり、破棄をする。あり得ないでしょう?
菱山 本当にそう思います。今の政治は、旧日本軍のように都合の悪いことはもみ消してしまおうというところが見え、全く成長していかないどころか後退してしまっているような状態ですよね。一つの不祥事を全員でもみ消そうと動いた結果、全員がおかしな方向に向かって行ってしまっているようにも思えます。9年間ずれ続けてきたものをゼロ地点に戻すというのはとても大変なことだと思いますが、総選挙勝利を通してもとにもどしていかなくてはなりません。
次の質問にもかかってくるのですが、今は自民党総裁選中で、もうすぐ新しい首相が誕生するという政治状況をどのように受け止めていますか。そして、憲法と平和と民主主義の課題について大椿さんの意見をお伺いしたいです。
大椿 私はまず皆さんに問いかけたいです。このコロナ禍の最中に2年に渡って首相が交代するこの国をどう思いますかと。コロナ禍で医療崩壊が起き、たくさんの方が命を落としました。大阪は、東京より人口が少ないのに、コロナに感染し亡くなられた方の数が全国最多です。時短営業や休業要請を出され廃業・倒産に追い込まれた人、解雇・雇い止めされ仕事を失った人、命の危険にさらされている人が大勢います。その中で、職務を投げ出すように辞めてしまう首相の踏ん張りのきかなさに驚いています。首相なら、そこは何が何でも踏ん張れよ!という感じです。
森・加計問題、桜を見る会、河井夫妻の買収事件、そして数々の強行採決。この9年間、内閣が何度ぶっ飛んでもおかしくないようなことが起きても一度も辞めると言わなかった人たちが、コロナ禍で自分の立場が悪くなったり、次の衆議院選挙で旗色が悪いと見るやあっさり辞めたりするというところに、あの方たちがどこを向いて政治をしてきたのかが分かるのではないかと思います。
菱山 彼らに市民の命と暮らしを守る政治はできないということですよね。
大椿 与党・野党を超えどうしたらコロナ感染拡大を止められるか、崩壊寸前の医療現場をどう支えるか、生活苦から命を絶ってしまう前に失業者の暮らしをどう支えるかということを真っ先に考え、議論すべき時です。そんな時に、野党がいくら要求しても国会を開かないという姿勢にこの国に暮らす人々の命を彼らがどう考えているか、よく表れていると思うんです。
また、自民党の改憲草案に目を通したところ、個人を尊重する内容ではなく家族というものを基にして国家の形成を考えています。そのような考え方に基づいて総裁選に立候補したのがあの4人なので、総裁が誰になろうと方向性が大きく変わることはないと理解すべきです。個人を尊重することを重視しないのであれば、自民党が政権を握っている間は、彼らの家族の規範に反する選択的夫婦別姓や同性婚の法制化も実現することはないでしょう。また、沖縄に対する強硬的な姿勢も今と変わらないだろうと思います。
菱山 沖縄の問題については、私たちと自公政権は全く意見が異なりますね。台湾海峡の問題なども含め何か起こったときにどこが犠牲になるかと言ったら、南西諸島や沖縄が再び足場となってしまう。沖縄の民意に耳も傾けず辺野古の新基地建設など推進する立場であり、反戦反基地や命を大事にしようなどといった考えとは正反対のところに位置する自民党は誰が首相となっても同じことのように思えます。
大椿 とりわけ、菅さんが幹事長時代の沖縄に対する態度は、冷徹の一言に尽きます。自民党だけでなく彼らを支えてきた公明党や日本維新の会などの政党のことも無視できません。むしろ大阪では支持率が弱い自民党よりも、日本維新の会の議席をどう減らしていくかというのが重要です。自民党は補完勢力であるそれらの政党を取り込みながら、あらゆる層の拡大をしていったと思うので、それらの政党の動きにも注意が必要だと考えます。
菱山 日本維新の会は、野党のふりをした自民党の補完勢力ですね。
大椿 日本維新の会は、自民党の政策で反対すべき内容のものにこぞって賛同しているように思えます。現在の政治は、自民党政権を打倒すれば全て解決するという単純なものではありません。自民党の後ろに控えている政党がいくつもあるのです。
菱山 最近になって、自民党の中からもちらほらジェンダーの問題に言及し始めています。先ほど大椿さんは自民党にはジェンダーの問題を解決することはできないという旨の発言をされていましたが、その理由を教えてください。
大椿 だって未だに、選択的夫婦別姓について「引き続き議論を」とか言ったり、真っ向から反対している人が総裁選に立候補するんですよ。それが全てを物語っていますよ。もう何十年議論してのだ、という話です。彼らの変化を待っているくらいなら、政権交代した方が実現への近道です。野党は選択的夫婦別姓も同性婚の法制化も賛成しているのですから。 とりわけ若い人たちにとって選択的夫婦別姓は政治家の人権感覚・多様性を受け止める力を計る一つの基準になんですよね。
菱山 憲法草案などを見ると、個人は抹殺されて家族という単位になり、家族は国に貢献するものだというような文言があり、人間の尊厳など全く考えられていないと感じました。一方で、社民党はジェンダー平等や非正規労働者の課題解決などを掲げています。社民党がこれからどのような社会を目指していきたいのかというのを聞かせてください。
大椿 私、自民党の総裁選に立候補された岸田さんが「新自由主義からの転換」と言ったことにひっくり返りそうになりました。「どの口が言うてるんや」と。「新自由主義の震源地はお宅ですよね」と。「じゃぁ、なんで今まで何もしてこなかったのか?」と、ロスジェネ世代の私は怒りを覚えるのです。このコロナ禍で貧困格差が広がっている中で、機を読み、支持率を得るためにそのようなことを言いだしたという風に思えてなりません。これまで幾多も指摘されていたにもかかわらず、真剣に取り組まなかったことへの総括が見えてこないと思いました。
社民党は、「非正規社会からの脱却」を掲げています。それは、私自身が最も目指しているものです。日本の労働組合の組織率は現在17.1%ほどしかありません。残りの8割強の人は労働組合にも組織されていません。そんな中で労働者の約4割が非正規労働者であり、女性に至っては6割に近い人が非正規で働いています。そういった人たちに向けて、私たちはどのような社会を作っていくのかということをしっかり伝えられる政党にならない限り、政治を変えていく力は生み出せないと思っています。私は非正規労働の当事者として、そういった人たちに「一緒に政治を変えていこう」と呼びかける役割があると思って政治に携わっています。非正規労働者を減らすために、臨時的な業務以外は原則有期雇用を禁止する入り口規制が作るのが私の目標です。
サントリーが45歳定年制だったり、電通が40歳を迎えた正社員の一部を個人事業主化したりするというようなことを言い始めました。最近こういうニュースがことさら取り上げられることに危機感を持っています。「雇用の流動化」の名のもと、企業が使用者責任を放棄し始めた印象を持ちます。コロナ禍ですべきことはそんな不安定な働き方を増やすことではないと思います。社民党は徹底して労働者の権利を守り、使用者責任を追及し、労働者の力を引き出す労働組合の組織化を支持する政党として私たちは存在しなければならないと思います。
また、社民党はジェンダー平等を実践している政党だと思っています。事実として、数ある政党の中で女性が党首・副党首を務めているのは社民党のみです。党の役員人事も男女半々です。プライベートでは党首・副党首ともに別姓を実践しています。これはある意味、男社会の日本の政治に対する挑戦です。
現在、新たなフェミニズムの動きが起きていて、20代30代の女性の方々が沢山声をあげ、行動しています。私が同じ年代の時に、今の方々のようにバッシングを受けながらも声をあげられたかといえばできていませんでした。だから社民党はそういった人たちを支える拠りどころになりたいです。これから政治は、気候危機の問題、そしてフェミニズムを抜きにはできません。特にフェミニズムに疎い政治家では新しい政治の転換は生まれないと思います。
菱山 非正規労働の問題とジェンダーの問題は繋がっていますね。どちらを考えるにしても、男女不平等や賃金格差などそういったものが社会の根底にあります。このコロナ禍で失業したりシフトが減ったりした人の割合で女性が多いのも、安倍政権が増やした非正規雇用のせいだと思います。こういった問題を根本から解決していく、さらにはフェミニストの拠りどころとなる政党が現れたら、未来に希望が持てます。女性たちの思いを代弁してくれる政党を期待します。
大椿 「拠りどころ」であり「盾」になるというイメージを私は持っています。拠りどころであるだけでは本当に傷つく女性たちが救われませんので、そういった人たちが何らかの攻撃を受けている時に、盾となり、共に立ち続ける政党であるべきだと私は考えています。
菱山 「拠り所にもなり、盾にもなる」すごく心強いです。私たちも頑張ります。本日は、ありがとうございました。
大椿ゆうこ
社会民主党副党首。1973年岡山県生まれ。四国学院大学社会学部社会福祉学科卒業。社会福祉士、精神保健福祉士、保育士。大阪教育合同労組委員長。2019年参議院議員選挙立候補(落選)。社民党全国連合「労働・女性・多様性政策」委員長。大阪9区国政政策委員長。
菱山南帆子
1989年生まれ。イラク反戦から市民運動を開始、当時13歳。市民運動家、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、憲法9条壊すな!実行委員会、許すな!憲法改悪市民連絡会事務局次長、市民連合などのメンバー。著書「嵐を呼ぶ少女と呼ばれて~市民運動という生き方」(はるか書房)。現在は福祉施設で働きながら市民運動を行う。