コラム

September-28-2021

立憲野党・政党インタビュー(第1回)立憲民主党・枝野幸男代表

インタビュアー/上智大学・中野晃一教授(市民連合)

917日/衆議院議員会館

中野 こんにちは。今日は貴重なお時間を有難うございます。

枝野さんの政権ビジョンについてお伺いします。まずは主要政策についてですが、経済政策から始めたいと思います。長年の新自由主義経済政策にコロナ禍における現政府の無策が追い討ちをかけ、生命や健康の危機と同時に経済危機が生じてしまっています。枝野さんの追求する「支え合う」社会や政治や経済のあり方についてお話しください。

枝野 まず、国内で物やサービスが売れないから景気が悪いという基本認識をしっかり持つ必要があります。海外への日本からの輸出は激しい競争にも関わらず、ちゃんと伸びています。他方、国内で物が売れない理由は大きく二つあり、一つはお金がないからお金を遣いたくても遣えない人たちが増えてしまっていること、もう一つはお金がそこそこあっても将来が不安だから遣えない、そういう意識が非常に強くなっていることです。

したがって景気を良くするためにも所得を再分配して、所得の低い人たちの所得を押し上げて、中間層を増やす。これが必要だし、それから例えば介護や医療、あるいは子育て、教育、それから失業など、これらに関する不安をいかに小さくするかが実は最大の景気対策であると思います。そうでないと国内消費が伸びず、仮に多少お金があっても貯める方向に向かってしまう。

デマンド(需要)サイドをどうするかということがポイントなのに、ずっとサプライ(供給)サイドをどう改革するかばかりだった政策からの抜本的な方針転換、これを進めていかないと経済はいつになっても元気にならないと思っています。ここを根本から転換したいと思います。

中野 おっしゃるように自公政権においては、これまであまりに自助・自己責任・自粛ばかりに偏重し、労働者や生活者への分配・再分配の強化が不十分なままです。これでは不安なままで消費が伸びようがありません。

枝野 安心という意味では、例えば、いわゆる従来型公共事業よりも社会保障型の支出の方が経済波及効果が大きいことはもう世界の常識なわけです。私は「公共事業=悪玉」論には立ちませんし、必要なもの、特に防災の観点から公共インフラの刷新は必要だと考えています。でも、経済対策という意味では、公共事業にお金を注ぎ込むより、例えば介護サービスを充実させる方が公共投資としてプラスになり合理的です。

中野 子育て世代については。

枝野 子どもを産む産まないはそれぞれの判断で、経済のために子どもが産まれてくるわけでは当然ありません。でも、子どもを産み育てることを希望しながら、お金がかかるので諦めている方がいるのが現実です。そして、子どもが増えれば消費は伸びるので、子どもを持つことを希望する人が希望を叶えやすい状況をつくることは、その人たちの助けになるだけではなく、結果的に経済対策にもなる。こうした発想も抜本的な政策の方針転換になります。

中野 また、女性の貧困はコロナ禍の前から問題であり、今や「女性の不況(she-cession)」と世界的に問題となっています。

枝野 女性の低賃金労働を前提にした社会経済構造が組み立てられ、それに依存して経済を回してきた時代状況がありました。しかし今や、先進国で経済が順調にいっている国ほど性差別的な賃金格差を是正し始めていて、女性の社会参加が進んでいる国ほど一般的に経済が順調な傾向が見られます。やはり多様化している消費者のニーズに応えきめ細かい多様なサービスや物を提供していくためには、できるだけ多様な人材が経済にコミットしなければならない。したがってこの観点から見ても、今のように女性が大部分補助的な役割しかないのでは、そもそもそういう企業は成長力がないということをしっかりと共有しなければならないし、もちろん社会啓発も必要なのですが。女性参画を邪魔している要素を早く取り除くことは、女性の平等な権利のためであると同時に、経済政策としても有効だと思っています。

中野 コロナ禍に経済を回し暮らしを立て直していくためにも大きな政策転換が必要かと思います。

枝野 結局これも消費できる状況をつくらなければ経済は絶対に良くならないですよね。だからしっかりと我慢してリバウンドの起きにくい状況にしないとならない。感染者が減ったから即緩めるのでは、結局リバウンドの繰り返しです。一度きちっと我慢をして、保健所が感染ルートを追える状況にしなければいけない。もちろんその際に傷んでいる家計を支えることが不可欠です。

むろん家計だけでなく、例えば観光や文化芸術などもすでに大きな痛手をこうむって、倒産や廃業がでていますので、こうした業種を支えるのは大前提としてやらなければならない。ここを変えないと結局同じことの繰り返しだと思っています。

中野 素朴な疑問ですが、なぜ自公政権ではそれができないのでしょうか。

枝野 私たちは草の根民主主義からボトムアップでやってきたわけですが、自公政権にはそこの声が届かない構造なのではないでしょうか。私もかつて経済産業大臣をやったのでわかりますが、企業の声も多くは団体を通じてで、それが草の根レベルのすべての声かというと、やっぱり最大公約数的なものにならざるを得ない。それは団体のせいではなく当然の限界です。GOTOキャンペーンのときにも、業界団体は「どんどんやれ」だったわけですが、実際に地域で我々が日ごろ接している観光関連事業者からはこんなことでリバウンド起きたら大変なことになると疑問の声が入っていました。たぶんそういう声が届かない構造ができてしまっているのかと思います。

中野 まさに今おっしゃったことと繋がってくるのですが、政官業の癒着や権力の私物化、違憲立法、あるいは憲法規定を無視して臨時国会を開かないことなど、安倍・菅政権で行政や政治に対する信頼が著しく損ねられてしまっています。それをどうやって回復していくのかについて、お考えを聞かせてください。

枝野 すぐにできることは2つで、ひとつは今まで隠されていたものを表に出し、行政の透明性を取り戻すこと。もうひとつは、説明しない姿勢を根本的に変えること。聞かれたことにちゃんと正面から答え、答えられない場合はそのことをきちっと説明する。ここを変えないと、信頼は取り戻せないと思います。

森友学園問題の「赤木ファイル」は、原本があることがわかっているわけですから、政府で決めて出せと言った瞬間に出せるわけです。それから名古屋入管で亡くなったウィシュマさんの動画もあるわけですから、これを出そうと言った瞬間に出せるのです。人権上の必要な配慮をした上で基本全面公開することは、すぐにできると思うのです。

私自身がもう25年ほど前に薬害エイズ事件で最終的に見つけ出した郡司ファイル。また民主党政権の際に岡田克也外相が言及した日米密約。我々は行政の透明性の推進には実績があるし自信もある。したがって、森友加計あるいは桜を見る会、それ以外でも例えばオリンピック関連のお金の遣い方、コロナ対策でも持続化給付金の配り方など、これはもう最大限に公開し、公開して改革が必要な点についても明らかにしていきます。

中野 そしてこの間停滞あるいは後退してきた日本を「前へ進める」ために、ジェンダーや環境・エネルギー政策などに関して、自公政権による偏狭なナショナリズムや復興的な価値観の押し付けを乗り越える枝野政権の政策についてお聞かせください。

枝野 やはり選択的夫婦別姓が一番典型だと思いますが、世界の標準から日本は大幅に遅れてしまっています。今どき選択的夫婦別姓制度もないという日本のジェンダーギャップの深刻さに私たちは強い危機感を持っています。それはもう国内の女性の人権問題である上に、国際社会での日本の信頼や国益を損ねている問題でもあると思っています。自民党総裁選で選択的夫婦別姓に賛成の候補もいますが、自民党全体の権力構造の中では断固反対という人たちの声が強く、やはり政権を変えない限り、進まない。もう20年以上足踏みです。

日本の国際社会への貢献を考えたときも、やはり日本は75年以上戦争をしてこないで民主主義と人権を少なくとも表面上はずっと掲げてきている国であるが根本にあるわけですが、国内の女性差別や外国人差別などを抱えて、これらを解決する姿勢が見えないようではやはり説得力がないわけですよね。入管でウィシュマさんのあのようなひどい死亡事件を起こしておいて他国の人権問題に対して自信を持って言えるはずがないですし。

外交安全保障を考えたとき、私たちは日米同盟が基軸だと思っていますが、世界から信用され尊敬されることをめざしていくことが、結果的に日本の国益を考えても一番リアリティのある道だというふうに思っています。

地球温暖化問題に関しても、原発に依存せずにカーボンニュートラルをめざし、日本が世界をリードできる力はあると私は思っています。確かに相当な技術革新が必要だし、そこには相当な投資も必要ですが、この分野で世界のトップに立つような「自然エネルギー立国」への大転換を私は志すべきと考えています。

中野 次いで、政権運営やガバナンスについてのお考えをお聞かせください。

枝野 やはり政官関係を抜本的に変えたいと思っています。今は政治家が決めておきながら、官僚に責任を負わせています。ルールを明確にして、政治家が責任を持って官僚の力を生かさないともったいないです。そういう意味では、自分自身の内閣官房長官や経済産業大臣の経験に照らしても、制度ではなく運用の問題だと思います。一定程度、幹部公務員の人事に政治が関与しなきゃいけないのと同時に、何か政治家にやたらと忖度したり都合のいいことばかり言ってきたりする官僚だけの人事では、官僚たちも能力を発揮できないので、そこはちゃんとメリハリつけなきゃいけないと思っています。

中野 枝野さんご自身の内閣官房長官としてのご経験も踏まえて、現在の首相官邸の権力の肥大化についてはどう思われますか。

枝野 私は、危機管理については官邸主導が必要だと思っているのです。2011年の3.11から半年はものすごい官邸主導で動かしました。そういう意味では、今のコロナ禍でも官邸主導が必要です。また、各省間の利害がぶつかるみたいな話は官邸が調整するしかないと思うのです。ただ、現在では初めから官邸が直接乗り出すことがあまりにも多いことが問題だと思っています。もちろん総理が官房長官や大臣に方針を指示して、ちゃんとやっているかどうかもチェックしなきゃいけないのですが、官邸が企画部門になっちゃいけないのです。方針は総理が決める、でも企画からは各部局の担当部長でないとうまくいきません。

中野 最後のトピックとして、立憲民主党の代表として最大野党の代表である枝野さんに自公連立与党と対峙する立憲野党全体の勝利をどうやって実現するかについて語っていただきたいと思います。

枝野 共通点で一緒に頑張って政権を倒そうということで、各党それぞれの違いは違いとして尊重しながら急いでまとめていかなくてはいけないので、全ての小選挙区でパーフェクトに候補者を一本化することはできないと思います。また選挙の戦い方自体が多様で、異なる人たちを全員包括しないと勝てないので、結局、僕らにはゲリラ戦だと思います。大草原で正規軍同士が正面から戦ったら、それは自民党と公明党の金と組織の力にかないっこないのですが、その代わりこちらはまさに草の根の市民がゲリラ戦で、普段はどこにいるかわからない人たちを含めて各地でいろいろな形でやっているんですね。これがトータルすると実は自公に勝てるのですが、無理に一箇所に集めて潰されては元も子もないと思います。

中野 やはり野党共闘や政権交代への期待が高い分だけ、前のめりにあれもこれも望んでしまうところが私も含めて支持者の側にはあります。ただ現実を踏まえて言うと、立憲野党で衆議院の過半数取れても、当面参議院は相変わらずねじれているという状況ですよね。そんな中でもすぐに閣議決定だけでこれだけできると先日枝野さんたちは提示されました。

枝野 2009年政権の教訓の一つが、国会日程のカレンダーを見ながらどのタイミングで勝負をかけるかという段取りの発想の不足で、今はその反省を生かしてすでにかなり具体的に閣議決定だけで決められるネタをいくつもストックしています。なので、政権が変わるだけでも相当変える準備をしっかりしています。まずは法改正まで行かずとも最大限変えて、そこから法整備によって恒久化できます。

中野 ステップを踏んでいって立法を進めると考えると、気が早いようですが来年の参議院選挙も意識してさらに野党共闘を育てていかないといけませんね。

枝野 そうです。私はこの衆議院選挙と来年の参議院選挙はセットだと思っています。やはり両方勝つことで効果が最大化すると思っているので連続的に考えています。民主党政権時代の経験で、いかに「ねじれ」が大変かということはよくわかっていますし、当面は参議院でねじれていることを前提にいろんなものを組み立てています。

中野 最後に、枝野さんから市民連合の皆さんにメッセージをいただけますか。

枝野 大正期の憲政擁護運動が歴史の教科書に載っているように、50年後100年後の教科書に市民連合のこの間の動きは位置づけられると思っています。私たちも皆さんの期待に応える結果を出したいと思っていますのでよろしくお願いします。

中野 ありがとうございました。


枝野幸男

1964年(昭和39)年生まれ。87年東北大学法学部卒業、91年弁護士登録、93年衆議院議員初当選、以後8期当選。行政刷新担当大臣、内閣官房長官、経済産業大臣、民進党幹事長などを歴任。17年より立憲民主党代表。近著に『枝野ビジョン~支え合う日本~』(文春新書)。

中野晃一

上智大学国際教養学部教授(政治学)。市民連合呼びかけ人。

1970年東京生まれ。東京大学(哲学)およびオックスフォード大学(哲学・政治学)を卒業、プリンストン大学でPh.D.(政治学)取得。主著『野党が政権に就くとき–地方分権と民主主義』(人文書院)、『つながり変える 私たちの立憲政治』(大月書店)など。