【市民連合の要望書4】石川愛さんインタビュー「『漢方薬』にはなれるかも。『ふつう』の人の声で社会を変えたい。」
立憲野党の政策に対する市民連合の要望書
4. 利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換
新型コロナウイルスの危機は、医療、教育などの公共サービスを金もうけの道具にしてきた従来の改革の失敗を明らかにした。医療・公衆衛生体制、労働法制、教育政策等への市場原理の導入により、社会的な危機が市民の生活の危機に直結する事態が生じている。信頼できる有能・有効な政府を求める世論の要求は高まっている。利益・効率至上主義を脱却し、国民の暮らしと安全を守る新しい政治を目指していく。
石川愛(いしかわ・あい)
大阪生まれ。会社員。2018年から大阪で「国会パブリックビューイング」の活動を開始。2020年秋に行われた「大阪都構想」の賛否を問う住民投票では「残そう、大阪」の中心メンバーとして活動。
2020年11月1日、いわゆる「大阪都構想」=政令指定都市である大阪市の廃止の賛否を問う住民投票が行われた。2015年に続く2度目の住民投票はまたも「反対」が上回り、大阪市の存続が決まった。Covid19が拡大する中、チラシや動画で大阪市廃止の問題点を発信し、反対を呼びかける市民グループが次々と現れた。その中の一つである「残そう、大阪」で街頭活動を担った石川愛さんに話を聞いた。
——「残そう、大阪」はどんな経緯で生まれたのですか?
2020年の夏、「大阪都構想」に反対している、元大阪副知事の小西禎一さんをお呼びして小規模な勉強会をやったのが最初です。前回の住民投票のときに動いていた「SADL」のメンバーも立ち上げに関わっていたのですが、とにかく人が足りなくて。その後ツール作成、街宣計画と同時並行でバタバタ進んで、大阪市在住の人も、そうでない人も一緒に、周りの人を巻き込みながらやってきました。
私の周りでも、「なんで2回も住民投票やるん?」「コロナ大変やのに、ありえへん」っていう声が多かったし、会社の同僚も、「さすがにおかしい」と思っている雰囲気があったので、「もし負けてしまっても、何かせな」という思いは、ずーっとありました。
「みんなが自分の言葉や声で働きかけたら、絶対に何か変わるはず」「変わらないのは働きかけが足りないからだ」っていう感覚があるんです。根性論みたいに聞こえると嫌なんですけど、純粋に働きかける人が増えたらそれが届く可能性も増える。ならばやったほうがいいなと。ただ、コロナで色々と制約もある中で、どこまでできるかは心配でした。
——「個人が働きかけると変わる」と信じることができたのは、どうしてですか?
動く側の人になって、そう信じたくなってきたのかもしれません(笑)
自分がやらないと、思って動き始めたのは2018年くらい、国会で「高プロ」が話題になった頃です。当時私は非正規だったのですが、かつてのパートナーが劣悪な環境で正社員で働いていたこともあって、「働き方改革」関連法案の成立がどうしても人ごとと思えなかった。危機感を持ち、できる限り運動に参加するようになりました。
そのうちに法政大学の上西充子さんが始めた、国会審議の様子をそのまま街頭で上映する「国会パブリックビューイング(国会PV)」に興味を持って。京都の団体(京都で国会パブリックビューイング)のイベントにお手伝いも兼ねて参加したのを機に、大阪でもやろう、と。
2001年の9.11や米軍によるアフガン侵攻、2011年の東日本大震災と原発事故、2015年の安保法制の強行採決…と、これまで声を上げなきゃいけない場面はたくさんあったけど、自分が率先して動くのは無理だと諦めていました。父や弟が活動してるのを見ていて、しんどそう…という感想しかなかったですし。
——それなのに、国会PVの活動を始めたんですね
映像を流すだけなら、と最初は軽い気持ちで始めたんですが、思ったより大変でした(笑)
ショッピングモール内の公共施設でイベントをした時、企画の段階で、「特定の政治的主張に偏りすぎている」という注文がつきました。そうか、大阪はここから始めないといけないのか…と。そこで野党側の質疑だけにならないように与党も含めて、時間が半々になるようにしました。
面白かったのは、与党・野党で30分ずつにしても、与党は字幕の量が少ないんですよね。同じ持ち時間でもゆったりしてて、法案が早く成立するように突っ込んだ質問をしないので応酬がない、時にはねぎらったりヨイショをしたり。そういう空気感も伝わって、結果的には良かったと思います。
国会の様子を見た人が「自分の体験」として持って帰るのが、国会PVの醍醐味というか。こちらとしては、国会中継に字幕を付けて流してるだけ。なのに楽しいと言ってもらえることが嬉しかったですね。
上西さんの、「国会を自分の目で見るというのは漢方薬みたいなものだ」っていう話を聞いて、すごい納得したんです。例えば、「頭痛薬」ってすぐ効くけど、痛みの根本をなくすものではない。生活習慣のように続けること、やり続けることが変化をもたらすんだ、という話が、ものすごく腑に落ちた。必要なのは、一人ひとりが「おかしいな」「なんとかせんとあかん」って普段から考えるようになることだと思うんです。そういう思いが芽生えた人が、ひとり、ふたりと増えていくことが大事だと、活動してて思います。
私もフルタイムで働きながらだし、そんなに頑張れるタイプじゃないので、休み休みやってきたんですが、コロナになってから動けない状態になっていました。そんなタイミングで、今回の住民投票の話が出てきたんです。
——「大阪都構想」に反対する中で、維新を支持する人との対話は生まれましたか?
残念ながら対話を切ってくる人は多いです。「やってみなわからんやろ、いちいち反対するな」、とか…。でも必ず「なんでそう思いますか?」と聞くようにしていました。根気強く繰り返せば、自分の言葉が出てきて、案外生活に困っている話をしてくれたりもする。なんとかして敵味方のラベルがない地点に戻る努力が必要なんだと思います。
大阪では維新が活躍してるイメージが強くて、「なんとなく」支持の人が多い気がします。「自分が社会を変えられる」なんて想像もしてない。自分の生活のために声を上げることは「みっともない」とか「面倒だ」と思われていて、それも維新的なものへの共感になるんじゃないかな。
そういう価値観の中では「声を上げる人」は完全に他者化されていて、政治もそういう「異物」なんだと思う。でも、自分と切り離されたものではなくて、つながってるんだよ、って伝えるには、「つながってる実例」が形で周りに存在することが不可欠だと思って。
そのために、あまり活動を特別なものにしたくなくて、できるだけ素の「ふつうの人なんですよ〜」っていう体でいられるように試行錯誤しています。
思えば、ブラック企業で働いていたかつてのパートナーは、希望を見出すように維新の会を支持していました。そういう当時の違和感は今もずっと抱えています。
私と同じ考えになって欲しいと思ってたわけじゃないですけど、でも少なくとも、社会が変わることを賭けて支持してるものが自分の首を締めている、という構造に気づいて欲しかったです。
天王寺公園にいたホームレスのおっちゃんたちが追い出されて、流行りの飲食店が林立する公園に整備されたり、インバウンド目当てで、西成のあいりん地区の近くに大きなホテルができたりしています。自分たちの暮らしはさほど良くなってないのに、「きれいになった」「良いことしてもらった」と思わされてる感じが、嫌なんです。大阪が「良く」なるためには、いなくなった方がいい無駄な人たちがいる、っていう考え方がすごく怖い。
反対多数になったのに、まだ二重行政をなくすとか、府が主導で都市計画をするとか、今度は議員の定数も減らすと言う。「強くて大きなものに取り込まれてたら安心です、だから文句言わないでね」ってメッセージにとれるんですけど、「強いものが生き残るだけでいいの?」って問い直せるかどうかは市民にとって大きいですよね。
コロナ禍で大阪府や大阪市が何をしてきたか、何をしてこなかったか、そういう一次情報を大事にして欲しい。テレビが「知事がこんなに頑張ってる!」と流そうが、ご本人がアピールしようが、少しでも違和感を持ったら、ただやり過ごすのではなくて、隣の人と「どう思う?」っていう話をして欲しいと思うし、今回の住民投票では、実は多くの人が意外とそういうことができたんじゃないかと思ってるんです。
価値観の違う人と話して、すぐに分かり合えるわけがないんです。でも、私は「頭痛薬」にはなれないけど、「漢方薬」やったら、なれるかもしれない、と思っています。
——石川さんの原動力って、なんですか?
自分の違和感を大事にすること、究極は悩むこと…かなと思います。何を思って活動したらいいのか、いつもグラグラしている。自由に動ける「いい身分」の自分が、自由に動けてない人の、その背景にある問題を考えられるのかな、と無力感に苛まれたり。
しんどい時は基本的に引きこもってますし、よく寝込んでます(笑)
でも「どうしたら幸せになれるんやろう?」っていう思いがあるから、また動ける。
行動する前の「勉強して終わりにできる人」のままだったら、こんなにしんどくなかったと思うんですけど、実際に動いて、今回も止めることができた。実は、住民投票が終わった後、会社の同僚たちから、「ありがとう」って言われたんです。
口を開けば投票の話ばっかりで、高齢の親御さんと暮らしてる人にまでポスティングをお願いしたりして、こちらは申し訳ない気持ちしかなかったんで、びっくりしたんですけど、「自分ごと」として考えてくれたから、「おめでとう」じゃなくて「ありがとう」なんや…って。
毎日、悩んだり葛藤したり、ですけど、ちょっとずつ変わっていくと信じたいです。何十年もやりたくないですけど、何十年も続けていくことでしか、変わらないと思っています。
残そう、大阪 note
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