コラム

バイデン政権に 核の「先制不使用宣言」を支持する日本の声を 核兵器禁止条約の精神支持のために

2021 1 22 日に発効した核兵器禁止条約に日本は参加すべきだとの声が高まっています。しかし、日本は、核を先に使わないとの「先制(先行)不使用宣言」を米国がするのに反対してきています。日本に対する核以外の攻撃についても、核で報復する可能性があるとの脅しをかけ続けて欲しいと願っているということです。条約では、加盟国に対して、核兵器の生産、保有、使用、使用するとの威嚇に加えて、使用や威嚇を核保有国に求めることを禁止しています。現状では、日本は条約参加どころか、条約加盟国と核保有国の「橋渡し」もしようがありません。

バイデン政権登場と核兵器禁条約発効が重なった今年のチャンスを活かせるか

 大統領選挙キャンペーンで、先制不使用宣言支持を表明していたバイデン氏が条約発効の2日前の120日に大統領に就任しました。バイデン政権では、先制不使用宣言、あるいは、「米国の核兵器の唯一の目的は、核攻撃を抑止すること――そして、必要とあれば報復すること」だとする「唯一の目的」宣言が検討されると見られています。オバマ政権が約束した核の役割低減を実現するためです。

クリントン政権とオバマ政権で先制不使用・唯一の目的宣言が検討されましたが、同盟国の反対が重要な理由となって断念されました。オバマ政権が2016 年に先制不使用宣言を検討した際には、同年 4 月に広島を訪れたばかりのジョン・ケリー国務長官(当時)が「米国の核の傘のいかなる縮小も日本を不安にさせ、独自核武装に向かわせるかもしれないと主張した」ことが断念の一つの理由だとニューヨーク・タイムズ紙が報じました(2016 9 5 日)。ウォールストリート・ジャーナル紙は、その1カ月前に、7月に開かれた「国家安全保障会議 (NSC)」の関係者の話として、アシュトン・カーター国防長官が「先制不使用宣言は米国の抑止力について同盟国の間に不安をもたらす可能性があり、それらの国々の中には、それに対応して独自の核武装を追求するところが出てくる可能性があるとして、先制不使用宣言に反対した」と伝えていました( 8 12 日)。

核兵器禁止条約発効がもたらした核問題への関心の高まりを先制不使用宣言の実現に向けて活用できるかどうかは、日本の反核運動の取り組みにかかっていると言えます。

米国による先制不使用宣言に反対する日本

日本政府は、日本に対する核攻撃だけでなく、生物・化学兵器及び大量の通常兵器による攻撃にも核報復をするオプションを米国が維持することを望んできました。例えば、1982 6 25 日の国会で、政府は次のような解釈を示しています。米国の「核の抑止力または核の報復力がわが国に対する核攻撃に局限されるものではない」。また、1999 8 6 日には、高村正彦外務大臣が、「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難である」と述べています。この種の答弁が、歴代政権で繰り返されてきました。

米議会委員会、先制不使用宣言すると日本などが核武装する恐れがあると警告

オバマ政権の登場に先立って、米国政府に「核態勢の見直し」を義務づけた2008年度国防歳出権限法は、同時に、「核態勢の見直し」の参考に供する報告書作成を目的とした超党派の「米国戦略態勢議会委員会」の設置を定めました。20095月に発表された委員会報告書は、先制不使用政策を採用すべきでないとの結論に達します。

副委員長のジェイムズ・シュレシンジャー元国防長官は最終報告書に関する下院公聴会(200956日)で、「日本は、米国の核の傘の下にある30ほどの国の中で、自らの核戦力を生み出す可能性の最も高い国であり、現在、日本との緊密な協議が絶対欠かせない」と述べています。これを受けて、委員長のウイリアム・ペリー元国防長官は、ヨーロッパやアジアにおける「我が国の拡大抑止の信頼性についての懸念」を無視すると「シュレシンジャー博士が言ったように、これらの国々が、自前の抑止力を持たなければならないと感じてしまう。つまり、自前の核兵器を作らなければならないと感じる」と述べています。上述の日本の政策を見ればそう思ってしまうのも無理からぬところがあります。

ペリー元国防長官は、新著(核の『ボタン』)で日本に先制不使用支持を訴えています。同盟国が支持すれば米国は宣言ができるとの考えからです。

放っておけば今回もまた日本が宣言断念の理由、あるいは口実に

「日本が核武装なんてあり得ない。それが理由・口実になって先制不使用宣言が断念されてきたなんて」と、驚く読者も少なくないでしょう。政治家の場合もそうでしょう。しかし、放っておくと今回もクリントン、オバマ両政権での「悲劇」が繰り返されかねません。日本政府に対して核兵器禁止条約に参加するよう求めるだけでは、この問題が明確になりません。「少なくとも、米国による先制不使用宣言に反対しないこと」を政府に求める運動が必要です。そして、各政党にも、核兵器禁止条約の精神を支持するために、「先制不使用を要請する」、「宣言に反対しないし、米国が宣言しても日本が核武装することはない」とのメッセージを米国に送るよう求める運動が。

 

田窪雅文(「核情報」主宰)

 

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