コラム

February-04-2021

原発は気候危機対策の切り札か?

危機に瀕する地球

 欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2020年が2016年と並んで観測史上もっとも暖かい1年だったと発表しました。1850年~1900年平均と比べて1.25上昇したといいます。また、地球温暖化の大きな原因となっている二酸化炭素の大気濃度は、コロナ危機のなかでもふえていたと報告しています。

 二酸化炭素を排出する産業はたくさんありますが、その中でも大きなシェアを占めているのが、発電などのエネルギー転換部門です。日本の場合、排出量の4割をエネルギー転換部門が占めています。この多くは化石燃料(石炭、天然ガス、石油)を燃やして発電する火力発電所から出てきています。

原発を切り札に?

気候危機が差し迫った課題となる中で、一部の国々で原子力発電の利用によって、二酸化炭素排出量の削減を図ろうとしています。たとえば、日本や英国は原発を脱炭素の重要な要素だと位置づけており、また、新しく発足したアメリカのバイデン政権も原発を脱炭素に重要な電源だとしています。

そうした原発推進の掛け声がかかる一方で、原発の将来性には長い間、疑問符が出てきました。たとえば、日立製作所は3000億円を投じて進めてきた英国での原発建設計画から撤退しました。また、東芝は米国の原発建設計画で子会社だった原発メーカーのウェスティングハウスが巨額の損失を抱え、一時は倒産の瀬戸際まで追い込まれました。三菱重工もトルコでの原発建設計画を白紙に戻しました。日本だけではありません。フランスの原子力企業アレバは、いくつかの原発建設で巨額の赤字を抱え、国による支援の下、企業再編を行いました。

採算性という見慣れた風景

気候危機対策に原発をという声は特に目新しいものではありません。1980年代には、二酸化炭素排出量削減の有力な選択肢だと謳われ、2000年代には原発が数多く建設される原子力ルネサンスが到来するといわれました。しかし現実には中国などで多くの原発が建設されたものの、同時に原発の廃炉も進み、原発の基数は1980年代末ごろからほとんど変化がありません。どうしてこのような状況なのでしょうか。

 その大きな原因は、場合によっては11兆円近くにもなる巨額の初期投資です。電力会社は、原発で発電する電気を売って、この初期投資を回収します。でも電力業界は薄利多売の世界です。あまり利益を載せて売ることはできないので、投資回収は長い年月が必要になります。その間に、たとえば福島第一原発事故のような大事故が発生すると、仮に自分の所有する原発でおこった事故でなくとも、長期間の停止を余儀なくされます。運転できない期間も当然、設備を維持するための費用が必要になりますし、事故から得られた新しい知見に基づく改修、そのための巨額の投資が必要になるかもしれません。つまり、原発とは、きわめてリスクの高い事業なのです。

 

 

 

商業ベースに乗れない原発

 電力会社だけでは、原発の巨額の初期投資費用は賄いきれません。そこで、電力会社はリスクを分散するために、金融機関の融資を仰いだり、複数社が共同出資したりすることで原発建設プロジェクトを進めます。しかし、多くの国ではそのリスクの引き受け手がいなくなりました。結果、今日、原発建設プロジェクトが進む国の多くは、政府系の金融機関が融資を引き受けたり、原発輸出国(原発建設技術を持つ国は限られている)が融資をしたりしています。1956年に英国で世界初の商業用原発が稼働してから60年以上経過しますが、いまだに原発は国の支援がなければ成り立たない産業なのです。

  日本では、原発は安い電源だと言われます。でも多くの国々では、原発は採算が取れない電源と化しています。どうしてそうなっているのでしょう。日本でよく使われているのは、2015年に経済産業省の審議会が発表した発電コスト試算です。そこで、同じ方法をつかって、2019年時点の石炭、LNG、原発の単価を計算してみました。2014年当時、天然ガス(LNG)価格が高騰していましたために、そのような試算になっていたのです。また、日本では2012年から再生可能エネルギーで発電した電気を一定期間、固定価格で買い取る制度(FIT制度)が導入されています。制度導入当初の買取価格は高額でしたが、みるみる下がりました。それでも、日本では、まだ再エネの発電コストは原発より高いとされていますが、米国では、この数字は逆転しています。

 

間に合わない原発

 原発は計画から稼働まで、およそ20年かかる電源です。2021年の今から計画して、稼働するのは2041年ということになります。今よく言われている議論では、地球の将来の気温上昇を1.5℃に抑えるためには、人間起源の二酸化炭素排出量を2050年前後に正味ゼロにする必要があるとされています。

現在稼働中の原発の平均年齢は30.6年。老朽化が進んでおりここから加速度的に廃炉が進んでいきます。廃炉には数十年かかる場合もあり、一方で、原発の建設期間は立地計画から考えると20年以上かかる場合もあります。

太陽光や風力発電はこの間、加速度的にコストが下がってきました。こうした電源は安定的に発電しないと言われますが、蓄電池の製造コストも同様に急速に下がっています。また導入期間も数年程度と短く、事業リスクも原発に比べて低くなっています。

もはや、原発か再エネかという議論をしている場合ではありません。コスト、リスク、導入時間、ともに、圧倒的に再エネが有利なことは明白だからです。これまで巨額のコストが原発に投じられてきましたが、貴重な資源を無駄なところに投じている余裕はありません。どうすれば火力発電や原発から再エネに安定的な形で、かつ素早く切り替えていくことができるかを議論するべき時です。

松久保 肇 (NPO法人原子力資料情報室)