コラム

【市民連合の要望書6】てらだはるかさんインタビュー「働いている人が守られないと、誰も守られない」

立憲野党の政策に対する市民連合の要望書

6.いのちを最優先する政策の実現
新型コロナウイルスとそれに伴う経済危機による格差の拡大を阻止するための政策が求められている。医療・公衆衛生体制に国がしっかりと責任をもち、だれでも平等に検査・診療が受けられる体制づくりをめざす。感染対策に伴う社会経済活動の規制が必要な場合には、労働者、企業への補償に最優先の予算措置を講じ、公平性、透明性、迅速性を徹底する。

てらだ・はるか

保育士。都内の認可保育園に勤務。
19歳の頃からアルバイトで生計を立てながらパンクバンドでドラムを担当。曲作りのためギターも。現在はアコースティックユニットでカホンを担当。メンバーの1人が「育休」のため活動は休止中。

    


特定秘密保護法案や安全保障関連法案に反対するため、なけなしのお金を手に国会前に通っていたてらだはるかさん。2年前に保育士資格を取得し、都内の保育園で働いている。情熱を傾けてきた音楽活動を少し控え、小学校の卒業アルバムに書いた「夢」を実現させたのは、「世の中がおかしな方向に向かってる」と感じ、次の世代にまともな世の中を渡したいと思ったから。今、保育の現場で何を感じているのか、話を聞いた。



――コロナ禍で、保育園は大変ですよね。どんな様子ですか?

いろんな面で業務量は増えています。インフルエンザやノロウイルスの流行時期だけだった消毒作業も季節に関係なく毎日になりました。本来子どもたちは、大人の口の動きや表情を見て言葉を覚え、人間関係の築き方を知っていくのですが、うちの園では大人はマスクを外さない方針です。子どもはいろんな場所を触るし、服の袖で鼻水も拭くし、そもそもマスクを着けられませんから、気を抜けない緊張感が続いています。

コロナ以降、保育のすべてにおいて、子どもの発達に必要なことと感染リスクを考慮しながら、職員会議で何度も話し合って見直しています。歌は室内ではなく窓を開けて外に向かって歌うようにしたり、異年齢クラスとの交流も発達のために必要だけど、感染者が出た場合に濃厚接触者を減らすために止めています。

毎年恒例の運動会も、開催するかどうかから話し合いました。結果として、練習も当日も、クラス別に。当日は子どもたちも保護者も交代制で、3歳児クラスが入場してかけっこなどをして、保護者も含め全員退場したら次のクラスが入ってくる、という風にし、導線確保のために職員を配置したりもしました。
本来なら、保護者だけでなく地域の人にも開かれた運動会。子どもにとっても豊かな経験を積む大事な行事ですが、密を避けるために観覧の保護者は1名だけ、高齢者が感染したら重症化する可能性が高いので、おじいちゃんおばあちゃんには遠慮してもらいました。

なにもかも、これまでとは違いました。子どもたちは楽しんでくれていたし、「場所取りしないで済んで楽だった」と言ってくれた保護者もいたので良かった面もあるのかもしれませんが、寂しいというか、複雑な思いはあります。

うちの園長は「誰が感染してもおかしくない状況だから、いつ出ても対処できるように準備している」と言ってくれていますが、正直、運動会から2週間以上が経って感染者が出ていないことにホッとしています。保育士はみんな、自分が感染しないように、無症状のまま感染を広げないようにと、電車通勤から自転車通勤に変えた人もいるし、外出も会食も控えています。実家から「帰ってくるな」と言われ帰省できない職員もいます。GoToキャンペーンなんて利用できません。


ーー保護者のみなさんの様子はどうですか?

春に入園した子どもが、自治体の休園要請が5月末まであったため6月からまた慣らし保育になったり、6月以降もできる範囲で登園日数や保育時間を減らしてもらったり、と保護者の負担は大きくなっています。
自営業者や医療・介護関係者、飲食や流通、職人など、現場に行かなければいけない人は休園になっても仕事は休めません。在宅ワークでも、しばらくは在宅でと判断する所もあれば、保育園が休園なら在宅ワークにしてもいいという所など会社ごとの判断もバラバラで、保護者が自分でどうにかできる状況ではないです。それに在宅で仕事できる人も、小さい子どもを見ながら仕事をするのは限界がありますよね。
休園期間中、園から様子を聞くために電話をしたときに、「疲れました」と言った保護者も1人や2人ではありません。

5月末までに職場復帰や就職をする前提で4月入園をした育休中や就活中の保護者が、コロナ禍で事情が変わって復帰や就職が難しくなっているのに、「保育に欠けるという要件でなくなったから」と、9月末の退園を余儀なくされている自治体もあります。
「なに?どういうこと?」って思うことが増えました。

そもそもの制度がギリギリで、余裕がない中でやってきていて、それに加えコロナ禍で、それぞれの現場はそれぞれの状況に合わせて対処しています。それは当たり前のことだけど、政治の側が科学的根拠を持って基準とか出してほしい。そうでないから、園も保護者も振り回されて、結果的に子どもたちにしわ寄せがいく状況になっています。


ーーいま保育士として働きながら、何を感じていますか?

せめて、定期的にPCR検査を受けられたら…とは思います。リスクが大きい現場だということは、誰の目にも明らかですよね? 自分だけじゃなく他人の、しかも子どもの命にも関わることなのに、症状が出ないと受けられないなんて。
以前よりも、医療や介護や保育の仕事って世の中にとって必要な仕事だ、ってわかってくれる人が増えてるとは感じるんですが、でも、現実は何も変わっていません。

そもそもの待遇面や、保育の質を確保するための配置基準とか、これを機に考え直してほしいとも思います。今のままでは、負担が大きすぎます。
保育所の種類も、公立、認可、認証、無認可、企業主導型、と色々あって、保育士の待遇も保育の質のための基準もマチマチです。株式会社が運営している保育園に勤めている友人が、休園要請のあった期間給料が6割しか出てないっていうから、会社に言った方がいいよ、って勧めました。そしたらちゃんと10割出るようになったんですけど、言わなかったらそのまま4割はねてたってことですよね。

保育について、「ただ見てればいい」っていう目線を感じます。「ただ見てるだけだと、命を落としますよ」って言いたいです。発達のために環境を整えて保育をする必要があるから国家資格なのに。
前から、保育や介護の現場へのしわ寄せは感じていたし、「質」を担保するための制度設計をなぜしないのか、と政治に対する不満はありましたが、コロナ禍でさらに憤りを感じるようになりました。
こんなに大変な時期に、どうして医療や保育、介護の現場を守らないんだ、って。
ここで働いている人が守られないと、誰も守られないじゃん!って。

保育園って、いろんな職業の人の子どもを預かっているし、保護者の意見も様々、保育士もいろんな価値観を持っていますが、その中でも、子どもにとって一番いいものは何か、ということを念頭に、話し合って決めています。運動会をやるかどうかでも、命や健康が最優先だから今年は中止にしてほしい、という人もいれば、子どもの育ちのためには必要じゃないか、という人もいる。色んな人の色んな思いがせめぎ合う中で、例年とは違う形で開催することになったんです。

みんなで意見を出して話し合う、ってすごく大切ですよね。
大人になると、価値観が合わない人とは疎遠になっちゃうし、それは自分が生きやすくするための方策でもあるんですけど。意見が合わない人や大切にしていることが違う人とも、話さないといけない場面はありますよね。
どっちかを殺すわけにはいかないから、どっちも生られる方法を探そう、っていう話し合いができるようになりたいな、って思っています。