コラム

ソーシャル・ディスタンスとテクノロジーの将来

 前回はコロナショックが所得分配にたいしてどのような影響を与えるかについて考えました。そして、このコラムの最後で「スキルの格差」の影響について触れ、テクノロジーの動向に注意を向ける必要性を強調しました。
 パンデミックは人びとを空間的に分離する「ソーシャル・ディスタンス」を規範化します。新型コロナウィルスのワクチンや治療薬が開発されても、未知のウィルスが出現する可能性は論理的には無限大です。したがって、新型ウィルスが出現するかどうかにかかわりなく、社会はウィルスによる混乱を未然に防ぐ方向にシフトせざるをえません。そこで注目を浴びているのが言語を介したコミュニケーションを効率化するテクノロジーと、表情の変化や触覚など感覚的なものの伝達を主としたコミュニケーションを効率化するテクノロジーです。
 前者は、すでに私たちが日常的に利用しているインターネットの延長線上で次々と生まれているサービスが当てはまります。2020年3月以降、一部の事業所でしか利用されていなかった「Microsoft Teams」や「Zoom」、「Google Meet」などのアプリケーションが、一気に普及しました。リモートワークが当たり前となっただけでなく、趣味のサークルなどでも活用が進んでいます。こうしたコミュニケーションの様式が、一部あるいはかなりの部分の既存のコミュニケーション手段を代替できると認知されれば、こうしたツールの利用は増えこそすれ、減ることはないでしょう。
 後者は、まだ実用化のめどは立っていませんが、将来重大な変化を社会に及ぼす可能性のあるテクノロジーです。すなわち、将来的には人間の感覚器官の一部をロボットに代替させることで「物理的に移動しなくても、移動したのと同じ効果を得られるサービス」の提供が開始される可能性があります。こうしたサービスは空間的、物理的移動の必要性を極端に低下させ、交通インフラはもとより、都市構想のあり方そのものを変える可能性秘めています。
 勘のいい方はお気づきだと思いますが、これはトヨタが「スマートシティ」構想を発表したことと無関係ではありません。自動車や鉄道などのモビリティ(移動)を主たる生業とする企業にとって、ロボットによる身体の代替は生業そのものを消滅させるリスクがあります。一部の自動車巨大企業はこうした未知の事態に対処しようとしているのです。
 重要なことは、以上すべてが特定の企業、しかも巨大企業によって担われているということです。現在政府や自治体が行っている事業――道路・海路・空路や通信インフラの整備など――の一部あるいはかなり部分を特定の巨大企業が代行するような社会が到来するかもしれません。「公」のあり方に重大な変化が生まれる可能性があり、CSR(企業の社会的責任)がいっそう問われます。

専修大学経済学部准教授 森原康仁