特集記事

June-10-2019

福島から見る原発状況ー 武藤類子(福島原発告訴団・団長)

福島の初夏は鮮やかな緑と白や紫の花々が美しい、みずみずしい命あふれる季節です。

東京電力福島原発事故から8年が経ちました。今、福島で耳にする言葉は、復興、オリンピック、未来、夢、安心……。しかし、その陰に解決されていない問題、新たに引き起こされた問題が山積しています。国策として行われてきた原子力発電が、チェルノブイリ原発事故と同じLEVEL7の事故を起こし、何十万という人々に甚大な被害を与えたこと、その後の政策のまずさにより多くの被害者が苦しみ続けるという事実は、やはり国を挙げた政策により隠され、危機感を薄められ、封じられています。

福島県には未だ「原子力緊急事態宣言」が発令されたままです。

原発の敷地内には汚染水の1000tタンクが900基も林立しています。それらを薄めて海に流そうという主張が、原子力規制委員長からしばしば出されています。しかし福島県の漁業者や多くの住民たちは、海には流さず、陸上保管をすべきだと主張しています。特に漁業者たちは、再開を目指して準備をしてきたのに、トリチウムなどを流されたら福島の漁業は完全に壊滅すると危機感を強めています。

また敷地内には、汚染水処理装置の放射性物質吸着塔が専用容器に入れられ、4000台も積みあげられていますが、その表面線量は最大で毎時22ミリシーベルトあり、それらも含め作業員の被曝問題は未だ深刻です。

120メートルある1・2号機の排気塔は、破断している支えの鉄骨と共に解体を行おうとしていますが、事故時にベントをしたために根元付近の放射線量が毎時10~25シーベルトと極めて高く、作業は全てを遠隔操作でしなければなりません。今年の5月に工事開始の予定でしたが、クレーンの長さが足りないという不手際があり、延期となりました。原発敷地内の危険は、周辺に帰される人々の危険と直結しています。

先日いわき地裁で、原発作業員の過労死についての裁判が始まりました。作業員たちは被曝とともに苛酷な工程の中で作業を続けています。廃炉までの作業が健康と安全を確保されるように、きちんとした国の管理が政策として必要だと思います。

また、環境省によると、除染土が福島県内に1400万立米あるとされ、順次中間貯蔵施設に運ばれていますが、環境省は除染土を再生資材と呼称し、高速道路や市道などに埋めて再利用しようとしています。二本松市の実証事業は住民の反対で中止になりましたが、今度は南相馬市で高速道路の路床として埋める計画が進められています。飯舘村の帰還困難区域では、農地のかさ上げ材としての再利用計画が進められています。いずれは日本全国にばらまかれる計画です。放射性ゴミの問題は、原発の低・高レベルの廃棄物を含めて深刻な問題です。「痛み分け」などの問題のすり替えをせずに、拡散を防ぎ、長期間の安全な管理が必要です。これらについての国民的議論が必要です。

昨年、国連人権理事会の特別報告者が、子どもや出産年齢の女性に対しての避難解除の基準をこれまでの年間20ミリシーベルト以下から1ミリシーベルト以下まで下げることや、無償住宅供与などの公的支援の打ち切りが区域外避難者らにとって帰還を強いる圧力になっていることなどを指摘しましたが、福島県は区域外避難者に対し打ち切り後に提供していた県の支援策を今年3月で終了し、今後公的な支援は行わないとしています。また県は、、未だ帰還困難区域を含む浪江、富岡、葛尾、飯舘の4町村に対しても2019年度末までに仮設住宅の提供を全て終了すると発表しました。今年になって、やはり国連の子どもの権利委員会からも新たな勧告がでています。国や自治体の帰還政策は、事故前の放射線量に戻ったからの帰還ではなく、被ばく線量が年間20ミリシーベルトというダブルスタンダードのもとに帰還を促しています。インフラ整備が不十分であることも含め、避難者を経済的、精神的に追い詰めています。避難者・被災者全員が元の生活を取り戻すことができるまで、具体的に支援を続けるべきです。

事故当時18歳以下の子どもに対する県民健康調査の甲状腺検査では、現在、甲状腺がんと診断された人が168人、がんの疑いが43人、合わせて211人と発表されています。しかし、昨年の甲状腺評価部会において、その中には含まれていないがん患者が11人いることが公表されました。また、県民健康調査を通さず福島県立医大以外で甲状腺がんの手術をしている人がいることが、民間の支援団体によって把握されていますが、県は県民健康調査以外の事例の調査はしないとしています。評価部会は原発事故との関連は、現時点では無いとしていますが、原発事故後の福島県内の小児甲状腺がんの正確な罹患数もわからず、十分な検証の無い中で正確な評価はできないと思います。検討委員会では、過剰診断によって見つけなくてもよいがんを見つけてしまうとか、学校での一斉診断が人権侵害にあたるなどと主張して、検査の縮小を提案する委員もいますが、検査継続の重要性や早期発見と早期治療を主張する委員との間で激しい議論となりました。

今年になり、事故当時双葉町に在住していた11歳の少女の甲状腺等価線量が100ミリシーベルト程度になるということが、2011年5月に放射線医学総合研究所の会議で報告されていたと、新聞で報道されました。国は今まで「100ミリシーベルトを被曝した子どもはいない」と発表していました。当時、避難区域からの避難者の内部被ばく量の検査を十分にしないまま、「問題がない」とする文書が作られていたことも明らかになりました。

福島県伊達市では、市民の被曝線量を三分の一に見積もった論文がその間違いを指摘されているなど、被曝と健康被害の関連はますます隠蔽が疑われる状況になっています。

私たち原発被害者は自分たちに起きた被害の真実が知りたいのです。正確で真摯な調査と研究を国がリードしていくことを望みます。

 

また大きな問題だと感じるのは、若者や子どもたちに対する放射線教育のあり方です。福島県内には、放射能に関する教育施設が作られています。しかし、ここでの教育は、放射線は自然界にもあり、食べ物にも含まれ、医学や科学に役立つもので、特別気にするものではないのだ、というメッセ―ジに受け取れます。

自分の周りに残存する放射線の危険を認識し、それから身を守る教育こそが必要だと思います。文科省が発行している放射線副読本も原発事故を受けて改訂されたのですが、2018年度版では再び後退し、復興が大きく取りざたされ、原発事故や放射能汚染、子どもの放射線被ばく感受性などの情報が無くなっています。「原発の安全神話」により原子力発電の危険性が隠されてきたことを反省せずに、今度は「放射能の安全神話」をふりまこうとしているように感じます。原子力や放射能に関する正しい教育が必要です。

 

ひとたび原発事故が起きれば、このように思いもしなかった出来事が続いていきます。人権は侵害され、生きる尊厳を奪われて行きます。一日も早く、この連鎖を止めるためにも、原発事故の責任を追及し、真摯に反省をし、原発の完全撤廃、被害者への完全救済を、政治が決断することが大切です。そして、原発は一つの発電方法に過ぎないのだから、エネルギーに関しては再生可能エネルギーなど別の選択をすること、省エネなどエネルギーの使い方を考え直すことが必要です。

今、新しい政権と新しい考え方の政治が、私たちには必要だと思います。