特集記事

July-01-2019

ジェンダー平等で社会や経済を変えるー 三浦まり(上智大学教授)

ジェンダー平等は市民連合の中心的な理念

「ジェンダー平等」は市民連合の中心的な理念です。野党は与党に対するオルタナティブ(対抗理念)を提示することに存在意義がありますが、ジェンダー平等はまさしく与党に対するアンチ・テーゼであり、立憲野党を束ねる中心的な理念です。なぜなら、個人の尊厳を尊重する政治が立憲野党に共通する理念である以上、すべての個人の尊厳が守られなくてはならず、そのためには女性やLGBTsの尊厳が守られなければならないからです。そしてまた、ジェンダー平等は自民党政権の目指す方向性とは逆であるという意味で、明確なオルタナティブなのです。

市民連合の支持者のすべての方は、ジェンダー平等が重要であり、その理念に賛同するのではないかと思います。しかしながら、それが中心的な理念であるとまでは考えていない方もいらっしゃるかもしれません。「女性」というマイノリティの権利擁護には賛同しても、それはあくまで数ある政策のひとつとしか認識されないことも多いように思います。ジェンダー平等は経済政策や社会保障政策と横並びにされるひとつの政策ではなく、立憲野党が掲げる政策の横串となる根本的な理念です。このことを押さえることが決定的に重要です。

市民連合が望む経済政策や社会保障政策は、個人の尊厳が守られ、誰もがそれぞれの幸福を追求できるためのものです。まっとうな生活がおくれるようになり、将来の見通しがつき、安心できる社会の構築のために、財政や税制、労働政策を策定するのです。女性も男性も、性的マイノリティもすべての人が安心できる社会へと、既存の制度を変えていく必要があります。

これまでの税・社会保障・労働・家族政策は、性別役割分業を前提として組み立てられてきました。性に対して中立的ではなく、家族形態によって大きな格差をもたらすものです。男性が稼ぎ主となり、終身雇用を保障され、女性は専業主婦か主婦パートとして働き、子ども2人を育てることが「標準モデル」として想定されてきました。ここには2つの問題が潜んでいます。「標準モデル」に合致する人が実際には少なくなっていること、「標準モデル」以外の生き方をしている人には現在の仕組みが不利になっていることです。この矛盾を解決するためには、結婚する・しない、子どもがいる・いない、正規雇用で働く・働かないといったことに関係なく、公平な仕組みへと税・社会保障・労働・家族政策を改めていかなくてはなりません。

ジェンダー不平等な社会というのは、社会や法律に性差別が残り、男性と女性にはそれぞれ固有の役割が割り振られ、その役割から逸脱する個人に制裁がかかる社会です。女性なら子どもを産まないといけない、男性なら一家を支える稼ぎがなくてはいけないといった規範は、多くの人を苦しめるものではないでしょうか。こうした不合理で抑圧的な社会通念から個人を解放し、すべての人が生きたい人生を歩めるようにすることこそが政治の役割です。

市民連合が目指す改憲阻止もまた、ジェンダー平等と密接に関わっています。自民党の改憲草案は福祉における公助を切り下げ自助を促すもので、家族の助け合いを奨励することで、個人は家のために奉仕しなければならないかのような道徳観を示しています(詳しくは24条阻止キャンペーンをご覧ください。https://article24campaign.wordpress.com)。

 

政策合意書の意義

市民連合と立憲野党の間の政策合意書に掲げられた「LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること」は、ジェンダー平等を実現するための具体的かつ緊急の課題です。立憲野党はこれらを前面に掲げて闘って欲しいと思います。

「選択的夫婦別姓」は両性の本質的平等を実質化する重要な法的基盤です。日本は今や、夫婦同姓を強制するほとんど唯一の国です。姓を変えたくないと考える人の自由を奪っているのです。95%の婚姻カップルが夫姓を名乗っている事実は、男女平等が実現していない現実を表しています。1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓を答申してから20年以上にもわたって、この問題は放置されてきました。自民党政権が続く限り、実現することはないでしょう。秋からは免許書に通称(旧姓)も併記されるようになるなど、政権与党も通称使用者の利便性を改善することには取り組んでいます。しかしながら、選択的夫婦別姓というのは単に利便性の問題ではなく、人格権の問題です。通称使用が広がったとしても、選択的夫婦別姓の必要性がなくなるわけではないのです。

LGBTsに対する差別解消施策もまた、政権与党と立憲野党の違いが際立つ争点です。政権与党はLGBTsへの理解増進を促進することには前向きですが、差別解消には及び腰です。LGBTsだけではなく、女性差別もまた自民党政権下で取り組まれてこなかった論点です。どういうことかというと、男女雇用機会均等法位は女性差別の定義が書き込まれておらず、女性差別撤廃委員会からは再三にわたって日本政府は差別の定義を法的に規定するよう求められているのです。

差別を法的に定義しそれを禁止することが差別解消には不可欠です。しかしながらそのような法的基盤が日本では整っていないため、ジェンダーに基づく差別というのは日本では見逃されやすく、防止や救済が難しい分野となっています。

また、近年では#MeToo運動の広がりがあり、性暴力やハラスメントへの問題理解が社会に広がるとともに、法改正への機運も高まってきました。性暴力被害者の救済、ハラスメントの禁止規定の創設、刑法改正(性犯罪の規定見直し)、性差別禁止法の策定も重要な課題です。ILOでは仕事の世界における暴力とハラスメント撤廃の新しい条約が成立しました。日本も国際基準に合わせて国内法を改正し、批准すべきです。

女性や性的マイノリティに対する暴力やハラスメントは、差別が原因となって引き起こされます。自分より格下に見ている相手を支配したいという欲求、あるは支配できるはずだという思い込みが根底にあることで、起きるのです。暴力とハラスメントがある限り、仕事の世界において男女平等が達成されることはありません。

そして、これらのジェンダー平等政策を実現していくためには、意思決定における男女同数化(パリテ)が必要です。政治分野における男女共同参画推進法の成立を受け、国民民主党は3割、立憲民主党は4割の数値目標を掲げました。数値目標こそないものの、共産党、社民党も率先して女性候補者を擁立しています。女性候補者の擁立の観点でも与野党の違いは際立っています。

 

市民の役割

参院選に向けて市民が果たす役割は、第一に政権与党の業績評価、第二に立憲野党の対抗理念の点検です。与党と野党では「責任」と持ち方が違うからです。この点を踏まえず、各政党の公約をフラットに比較することは、政権与党の責任を曖昧にするものです。

与党はこれまで政権にあって政策決定に責任を負っているのですから、有権者はその業績を評価し、それに基づき投票を決定すべきです。そして、野党に関して言えば、与党への対抗理念を提示しているかどうかの観点から評価をすべきでしょう。これは対案があるかとは別の次元です。与党が設定した土俵に常にあがる必要はありません。野党は自らの理念に基づき、異なる土俵を設定しても良いのです。

ジェンダー平等の観点から言えば、安倍政権の「女性活躍」が女性の就業促進以外のものではないことは自明です。確かに非正規雇用を含めた女性の就業は速いスピードで上昇していますが、賃金や意思決定等における男女格差の解消は遅々として進んでいません。ジェンダーギャップ指数が世界110位であることが、このことを示しています。

ジェンダー平等を中心に据えて、立憲野党の取り組みを後押しすることが、市民連合としても不可欠な視点だと思います。